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バリのテロ、チェンマイの洪水

  北方の薔薇チェンマイ、天人の都バンコクから今朝帰国。

 チェンマイでは、何十年ぶりの洪水で、私の発った翌日には泊まっていたホテルも腰か腿の辺りまで浸水したとのこと。八月に一回、9月半ばに一回、ほとんど無いような洪水があったばかりで、私が到着した夜も、チェンマイは水への警戒を継続中だった。
 水の不吉がしんしんと、湿気の多い闇を満たしていた。

 死傷者の知らせはまだ聞いていない。後で調べる予定だ。堤防が一気に破れるのとは違い、ピン川の水がひたひたと上がってくるらしい。まず最初は、下水溝の蓋の穴から水が溢れてきて、あれよあれよと思う内、15分位で足首まで浸かり、またあれよあれよの内に腿まで、腰まで、胸まで水が上がってくるという。
 津波のように、水に呑まれて一気に押し流される破壊的なものではないようだ。

 
 それどころじゃないかも知れない。10月1日、またバリ島でテロですか。しかも同時多発。

 昨年、バリのウブドゥに滞在した折、2002年の爆弾テロの爪痕の深さを聞いた。観光の島だから、客足が遠のくと経済的な大打撃を蒙る。日本の旅行会社と契約している現地代理店の男性は、当時ノイローゼになり、昨年9月の時点でもまだ安定剤服用中だとのことだった。

 十年以上前。バリ島は穏やかな村社会で、狭い島故に皆顔が割れている。犯罪は本当に少なく、観光客を狙った犯罪も繁華街で余所から来た(具体的にはジャワ島、と言っていたが)連中だ、と、現地の人たちは情け無さそうにこぼしていた。

 昨年の観光業者氏の話も、バリのヒンドゥー教徒は因果応報を信じており、他人を騙したり危害を加えれば自分に戻ってくると考えているが、余所の島のイスラム教徒は悪いことをしても天国に行けると考えている、と嘆いていた。話の底流は、“我々が一体彼らに何をしたというんだ、ひどいじゃないか”というものだった。
 日本人が日常見慣れている、殴られたら殴り返す的な怒りとは別物なのだった。バリの人たちの話は、おおむねそのようなものだった。広くない自分の島がテロに会ったらどんな反応をしがちかを思えば、あくまで嘆きであって激しい憎悪ではないあたりにひたひたと感銘を受けた。


 確かに、テロリストから見れば、バリ島は欧米の観光客で儲けている許し難い奴らであり、“罪のない島民に酷いことをした”という視点は無いだろう。
 外国人が集まる繁華街でテロを行えば世界中に衝撃を与えられる上、バリ島にも長い打撃を与えられる、効果的なテロに違いない。私のように、どこにいたって(日本にいても)テロに合うときは合うのだ、と考える観光客は少ない。

 因果応報、という考えは昔の日本では日常にあった、善良な考え方だ。懐かしくあり、また、一方で殺害も聖戦ならば天国に行けるという考えも、理解は出来るのだ。テロが一方的な理屈であっても、もし我々が彼らの地域に生まれ、彼らと同じ立場なら、そう考えるかも知れない。

 その溝の闇の深さに、暗澹たる思いがした。

 ニューヨークのテロは良い例で、非戦闘員を一時に大量に殺すやり方は酷すぎた。しかし、アメリカはもっと酷いことをやっているではないか、報復されて怒る前にこれまでの考えを改めなされ、と思った人も多いはず。

 受け入れがたい奴を此の世から排除したい、そんな考えは、多かれ少なかれ誰もが持っている。日本で普通に生活している、しかも世俗の争いが大の苦手の私ですら、持っている。仏教でいう此の世の苦しみに愛別離苦、怨憎会苦というものがあるが、憎悪を感じる相手と出会うのは、解脱を願うきっかけになるほどの大変なストレスなのである。解脱は凡人にはなかなか難しいから、嫌な相手を此の世から排除して、個体の存続をはかろうとするのは、動物レベルで自然な感情だ。

 ああ、とってもよく分かる、殺さないまでも嫌な奴をぶちのめす爽快感、しかもこちらが悪くなくて相手が悪い場合は、暴力は天が命じた行為であって、世のため人のためだという、達成感。一命をなげうった英雄的な行為。

 しかし! だからこそ、受け入れがたいから殺すのでは、進歩がないのだ。
 もっと違う方法で、世界中に衝撃を与えられるはず。殴られたら殴り返すのは私のような庶民の日常で充分、世界的なメッセージとしては不適切だ。被害に遭った人たちが報復に出ることに、違和を感じにくい。

 観光客は別にして、バリ島の皆さんの怒りが溜まって“許せん、こっちもやっちまえー”、になったとしたら、激しく悲しい。昨年、バリ島でテロの爪痕を聞いたとき、心を打たれたのは、テロへの怒りや憎悪が、そういう短絡的な種類ではなかったからだ。

 日本は国際平和には、日本独自の貢献をして欲しい。自衛隊を派遣してどうする。

 
by leea_blog | 2005-10-02 23:53 | Comments(0)
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