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台湾を十倍面白くする、高砂族の事。奇跡続出の「高砂族に捧げる」

台湾に行って、台湾の事をもっと知りたくなりました、
あるいは、台湾に行く予定で、日本人を魅了した原住民の話を聞いたんだけど、
ちょっと気になります、という方々。

あるいは、映画「セデック・バレ」を観て、高砂族に関心持ったけど、
いきなり霧社事件の本を読むより、一般的なおすすめ本有る?というかた。

あるいは、第二次世界大戦時の「高砂義勇隊」についてうろ覚えなんだけど、
何か本有る?というかた。


知らなくても安心、
ぐいぐい読めます、
知っている人も満足、な一冊が、
「高砂族に捧げる」(鈴木明著)です。

絶版ですが、メジャーな本なので、
ネットで簡単に手に入ります。

で。

高砂族に全く詳しくない著者が、
気になって調べて行き、
「なんとなく気になったんですけど。。。。。」から、
「高砂族、好きです」になり、
「愛してしまいました」になってゆく、
ラブレターのような本です。


著者が詳しくない状態から始まっているので、
読者も一緒にどきどきワクワク出来ます。


ともかく膨大な資料を読み解いており、
なおかつ、著者の視点は偏りが無く、
公平で、安心して読めます。

過去の出版物の誤りもしていきますので、
まずはこれを読むと良いでしょう。

著者の鈴木明はプロのライターなので、
引き込まれまくりです。


いや、アマチュアの、文章的には上手くはないかも知れないけれど
味のある文章も、実は大好きなんですけどね。

ちょっと、冒頭に近い部分を引用してみましょうか。


「『高砂族は勇敢だった』
和知将軍は夢見るような目つきで、当時を回想しながらいった。
『彼等は日本に強制されて行ったのではないのですよ。自分で進んで志願したのです。
だから、私は彼等を信頼していました。当番兵には、必ず高砂族の兵隊を使いました』
和知参謀の語ってくれたエピソードに、こんなものがある。高砂義勇隊が結成され、彼等が高雄港から南方に旅立つ時、一人の『蕃刀』をかついだ青年が、送られて来た母に何かをいわれてうなずいていた。総督府の役人の一人が『母は何をいっていたのか?』と訊ねると、彼は胸をはって、
『母には、再び生きて母の顔を見られると思うな、といわれました」
といったという。彼等の勇猛果敢さ、素晴らしい規律、素朴な純情は『二十世紀の奇蹟ではないか』と、僕に語った元日本兵もいる。その数は決して一人や二人ではなかった。しかし、何時何処で、どのようにして「高砂義勇隊」が誕生し、何人が戦場に赴き、そして何人が帰還したかは、誰も答えることはできなかった。
ー本当に、そんなことがあり得ただろうか?ー
まともな日本史を読んだ者なら、誰しもがそう思うであろう。」


上手いよね、書き方。

夢見るような目つきで回想したんだって。。。。。

まともな日本史を読んでいる皆さん、
確かに、「記憶の美化」じゃないか?と思うよね。




更に著者の興奮振りや奇跡振りを引用しよう。


「僕を三月十三日に立ち上がらせた直接のきっかけは、もう一つある。それはある台湾人の家で、偶然その本箱の片すみに『高砂義勇隊』という題名のボロボロの本が一冊、ポツンと転がっているのを発見したからである。
 僕は瞬間、文字通り息をのんだ。それほど、この本の存在は意外であり、突然だった。僕はそれまで、たしかに「戦史叢書」などで「高砂義勇隊」に関する数行の記述をみたことはあるが、それが一冊の本にまとめられているなどという想像をしたことは、一度も無かった。そして、その本の奥付を見て、意外さは興奮に変わった」



実に奇跡の遭遇なのです。
台北で出版された本で、日本の国会図書館にも無いんですよ。

凄さを分かってもらう為に更に引用。


「この杉崎英信著『高砂義勇隊』が何部刷られたかは不明だが、おそらく数千部を越えることはなかったであろう。その一部が、仮に内地に送られることはあったとしてもーその可能性は極めて少ないがー、それが戦災をくぐり抜け、捨てられもせずに今日まで残された可能性はほとんどゼロに近い。」



もう、ね、凄過ぎて、「演出じゃないか?」と思っちゃうくらい。


本当は、スタッフが事前に入手しておいて、知人の台湾人の了解を得て、
こっそり本棚に忍ばせておいたんじゃないか?????



ちなみに、著者が連絡を取ってみた所、
この本の著者は亡くなっていたが未亡人が言うには、
戦後台湾から引き上げの際、
自分が書いた本ですら一冊も持ちかえる余裕は無かったとのこと。

奇跡だな。


しかも、
「戦後の国府が統治する台湾で、旧敵国である日本軍の、それも高砂族の活躍を描いた本などを持ち続けたということが、どれほど「希有」のことであったかを、今ここで簡単に説明するのは難しい。まして、この本の存在を全く知らなかった僕の目にこれが止まるというのは、どう考えても幾重にも重なった偶然としかいいようがなかった」



まったく、凄過ぎて重ね重ね「演出ではないか?」と思っちゃうよ。



作者は口にしないけど、行間から「奇跡だ奇跡だ!」と
叫んでいるのが聞こえてくるようだ。



うん、詩集を自費出版している身としては、
正直、自費出版にどういう意味があるのか分からない。

ともかく金と手間が掛かりすぎる。

が、こうして、自分の死後、
遠いどこかで誰かを興奮させうるとしたら、意義のあることだ。

まさに、書物は時と場所を越えるのだ。

私の本の場合は、単に文学作品だから、
見知らぬ誰かが探してくれる可能性も薄そうだが、
私の本を持っている方、どうぞお願いだから、
捨てないで古本屋に売って欲しい。


この著者は、様々な奇跡の出会いをしており、


「今、僕の前には「タイヤル語典」と題された一冊の本がある。何回目かの高砂族取材の途中、台北の、文字通りゴミにうずもれた古本屋のなかで、ふと見つけた一冊である」


と、ゴミに埋もれた中から自費出版本まで入手しているのである。

学者でもなく役職にもなかった日本の巡査が、
仕事の傍らこつこつと研究し
台湾の小さな町の印刷所で印刷したものでした。

凄い。

ともかく、奇跡的なことがてんこもりです。




著者は、膨大な文献に当たるとともに、
テープレコーダーを携えて、
台湾に高砂族をたずねて歩く。


それも、実に当ての無い旅で、どきどきはらはらなんですよ。
バスに乗って行こうとしたら、バスも通っていなかったり。


で、著者のドキドキハラハラ加減が、実に巧みに描かれているんですね。
読者も一緒に息をつめちゃう。

なにそれ、本当に????
本当はスタッフがあらかじめ手配しておいたんじゃないの?
セリフも台本渡しておいたんじゃないの?????
的な出会いが実に沢山。




まず、地図が、今の村の名前と昔の記録と異なっているので、
入念に推測しながら調査する。

魏志倭人伝を読み解いて、
邪馬台国の場所を探り当てようとする学者と同じ情熱。



前に紹介した、
過激な発言頻出の高砂義勇隊に
素人さんがインタビューして回る本、
こちらも凄く面白いのですが、ようやくモノが手に入りました。
前に引用した時は、他の人に先に買われてしまうことをおそれて
出典を明らかに出来ませんでしたが、今は出来ます。

「旧植民地の落し子 台湾高砂義勇兵は今」石橋孝著
という本です。



「高砂族に捧げる」も、
興奮に次ぐ興奮、そして悲しい話もてんこもり、
何より著者の愛があふれていて、圧倒されます。

謎を追ってゆく一人の日本人。。。。。




引用したい部分は実に多数です。

が、紙面も限られているので(何処が紙面だよ)

最後に思わず笑った部分を、
一部だけ引用します。


著者が発掘した、
これは貴重なエピソード。



「大正九年、本多秀彦という人が埔里の分券遣隊長として赴任し、ふしぎな文章を残している。この文章は、当時の『矛盾』を生き生きと描いている点で、異色である。まず彼は湯池幸平という人が、タイヤル族の大討伐を行って、花蓮港に三十余名の頭目を一堂に集めたことから話をはじめている。

湯池氏は討伐隊員の士気激励のためもあって、壇上で得意の演説をし、頭目どもに十分自分の威勢を見せたあと、通訳を通じて頭目の感想を求めたそうである。その時、頭目の数人は感嘆しながら、こういったという。

『何という、坐りのいい首だろう』『あの首が欲しい・・・・・』」


ぷははははは!


誰がどう読んでも、「頭目の数人は感嘆しながらこういったという」のあとは、
演説に感心したのかと期待するじゃないですか!!!!

首かよっ。


知らない方の為に書いておくと、高砂族は首狩りが生活の一部でした。


湯池氏は、

「うわ〜ん、
高砂族の、ばか、ばかっ!
俺の得意の演説なんか聴いちゃいなくて、
お前らの頭の中は首ばっかかよっ!
もう来ないよっ!」と

泣きながら帰って行ったのではないか、と想像してしまう。


新任の先生が頑張って講義して
生徒に感想を求めたら、

「先生、胸大きいですね」
「尻大きいですね」と言われたくらいに

「うわ〜ん、お前らの頭そればっかりかよっ!」と
大声で泣き出しそうなシチュエーションではないか!



ちなみに、この本によると出草(首狩り)の犠牲者は深刻な数です。

明治三十二年は特に平地の被害が多く、

蛮人(高砂族)の出撃回数は三百二十五回、
台湾人および日本人の被害者は六百八十名。
米を運んでいた台湾人二十九人が殺された理由は、
隣りの種族との手打ちの儀式の為。

深刻過ぎて、ちゃかしたくなります。

この、ほとんど毎日出撃していた数、
テレビが当時有ったら
天気予報ばりに「今日の出草」というコーナーも出来そうです。


「みなさん、こんばんは。
今日の出草のお時間です。

今日は、珍しく蕃人の出草がありませんでした。
どうしたんでしょうね。

蕃人のみなさん、祭日かな?
それともお酒飲みすぎて二日酔いだった?

今日は休みだった為、
明日明後日は激しい出草が予想されますので、

平地の皆さんは
紫外線対策に気をつけましょう」

とか。。。。。




ともかく手軽で面白い一冊ですよ!
ぐいぐい読めます。

本当です。











by leea_blog | 2014-06-14 21:18 | Comments(0)
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