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澁澤龍彦・快楽主義の哲学・桃源郷の事


書物に埋もれて生活をしている。

このところ、再読にはまって、昔読んだ本を読み直しているのだが、

読み返したい本が、書物の樹海のどこに埋もれているのか、

発掘出来ず、買い直す、という事態が続いている。

これはいかんな、と、運動を兼ねて、

部屋の整理をしている所だ。


目に入ったのが、

澁澤龍彦の「快楽主義の哲学」。

早速読んでいる。

澁澤龍彦系は、

中高生の頃よく読んだ。

入門書のようなものだ。

再読すると、年齢とともに、

感想も変わり、自分や世の中を見つめ直す事が出来て、

大変有意義である。

幼い頃、

「ガリバー旅行記」について、

学校の先生が、

「子供には空想物語、大人には風刺物語として読める」と言った。

子供の私は、

「大人になると、私でも風刺物語に見えるのかな?」と、

すこぶる疑問であった。

先生は、

「大丈夫。大人になれば、誰にでも風刺物語に読めます」と言った。

それと同じである。


そういう訳で、

近頃快楽が足りない私としては、

栄養剤のつもりで、

「快楽主義の哲学」を手に取ったのだ。

(「宮無后という愛人人形を手に入れたじゃない、

十分快楽の日々ではないのか?」と、

江戸川乱歩の人でなしの恋のような突っ込みは、

置いておいてくだされ。

それについては、いずれ書くであろう)


しかし、これが、まえがきの段階で、

私の脳は異次元を見てしまった。


現代日本人なら、

ほとんどの人が「異次元」と感じると思うので、

以下に引用しよう。

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まえがき

泰平ムードと言う言葉があります。言葉だけではなくて、じっさい、そういうムードがあるらしい。

戦争が終わって二十年、だらだらと平和がつづき、日本経済は高度成長をとげ、消費文化は発達し、もうなんにも苦労の種はなくなり、もうなんにもすることがないから、それ、レジャーだ、バカンスだと、かけ声もくににぎしく、あほうみたいに遊びまわっている連中もあるようです。

むろん、平和がつづくのはけっこうなことであるし、遊ぶのもおおいにけっこうなことなのですが、わたしは、このムードというやつが、どうも気にくわない。しゃくにさわる。

あなただって、うまうまとムードに乗せられて、群衆とともに山へ行ったり海へ行ったり、右往左往するのは、なんだかばかばかしいような気がしませんか。

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うひゃー!

「もうなんにも苦労の種はなくなり、もうなんにもすることがない」!!!


この本は、文学について激論を交わすのが好きな人向けではなく、

カッパブックスという、文学好きではなくとも読みやすいたぐいの所から出ているので、

上記は、一部の恵まれた人々の事ではなく、

世間一般を言っており、

読む人々は、特に違和感を感じなかったのだ。


「もうなんにも苦労の種はなくなり、もうなんにもすることがない」!!!




子供の塾代の心配は無いの?

住宅ローンはどうしている?

家買った人は、何年も住んだら修理費掛かるよ?

子供が引き籠もって十年以上経っていない?

老後の事はどうするの?

職場でパワハラやセクハラ、無い?

通勤電車、苦痛じゃない?

終電ぎりぎりまで過密労働していない?

狂った上司と駄目な部下の間に立ってムンクの叫び状態にならない?



と、現代人なら、

戦争が無くたって、毎日が激しいストレスにさらされており、

苦労の種は、刈り取るそばからあらわれて、

やることがないなんて事はまず無く、

庭から石油でも出ない限り、

やること山積!であろう。



現代なら、

まえがきでいきなりこんな事を書かれたら、

「このお花畑野郎!」と

総スカンをくって、

誰もそれ以上は読んでくれないであろう。




うーん、戦後二十年の頃は、

「もうなんにも苦労の種はなくなり、もうなんにもすることがない」、

という表現に、たとえ辛口の誇張であっても、

多くの人が違和感を感じなかった、

何だか日本ではない国の話のようである。

まるで、桃源郷の住人のようではないか???




大きな驚きを持って、

その時代の空気を想像してみる私であるが、

平成だって、この後、二、三十年も経てば、

もしかしたら、

「平成の時代って、なんだかんだ言って、

日本は戦争も無かったし、テロも無かったし、

内乱も無かったし、

政府に批判的なことを言っても殺されなかったし、

何より、よその国に支配されてなかったんだから、

良い時代だったらしいね〜。

うらやましい」

と、後世の人に言われるかもしれない。




唐突だが、

私は、BookOFFで流れているテーマ曲を思い出した。

「遠くへ出かけると 体がしんどい

かといって

まったく出かけないと 心がしんどい

ゆるくいこうぜ 休日ブックオフ」

とかいう歌詞のものだ。



マニアックな文学書を置いていないブックオフは、

「日本人の脳をスポンジ化しようと企む何かの陰謀があるのではないか」、と

疑ってしまうのだが、

この曲を聞いて、思った。


「商売がうまいな。

古本屋だと思うとマニアックな文芸書が無い事に腹が立つけど、

要するに、

ゲーセンと同じだと思えばいいのか。」



この歌は、現代人の休日を、うまく突いていると思う。


通勤ラッシュ、過密な仕事、バイトで心身ともに疲労困憊、

休日はともかく家で休みたい、

といっても、

まったく出かけないと、

心が辛くなる、

しかし出かけると体力も金が掛かるし、

深く考えずに、

ゆるい感じで、ブックオフにでも来ませんか、という。



レジャーだ、バカンスだ、とノリまくるには、

心身ともに疲れた人が多いのだ。


そのような時代には、

「癒し」というキーワードが流行る。


癒しは、楽しみと言うより、

世間の荒波を泳ぎきるための、

心身のメンテナンスである。

心身のメンテだから、

お金が掛かっても、必要な事である。


と、

「まえがき」の段階で、

本題とはまったく違う部分に、

いきなり脳裏を直撃されて、

現代をつくずく振り返ってしまった。























by leea_blog | 2017-01-23 21:43 | Comments(0)
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