馬鹿日記・人形に江戸川乱歩の「黒蜥蜴」を薦める話。「黒蜥蜴」の妄想的原型の世界

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横になりながら一緒に本を読む図。


馬鹿日記で脳を中和する。

中村庶務課長とのメールでのやり取りに疲弊する前に遡る。

同居人が本にまで焼きもちを焼き始めた。

本を読んでいる間は、

家に居ても同居人を構ってやれない。



そもそも、同居人は、一日中暇だから、

私に構ってもらいたくてしょうがないのではないか?

せっかく、他所ではお目にかかれないマニアックな蔵書がふんだんにあるのだから、

読んだら良いのではないか?

素還真に、感化されて欲しい。



宮無后は、大変教養の有る人だが、

書物への渇望は、特に無い人だ。

まあ、ちょっと、教養以外にも読んでごらん、と、

積み上げてある本から、何冊かを取り上げて、

薦めてみた。

ちっとも乗って来ない。


ハラハラドキドキ系で、

続きが楽しみになる本を探してみたが、

エンターテイメント系の本は置いてない。

あるとすれば、これだ、

江戸川乱歩の明智小五郎物。

「黒蜥蜴」なら、

乱歩の中でも、特に狂っている作品でもないし、

青少年が大好きな、冒険系である。


と、いうことで、無后に黒蜥蜴を読んであげた。

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だんだん真剣になる宮無后。


「黒蜥蜴」は、

美貌の怪盗、緑川夫人と、名探偵、明智小五郎の死力を尽くした戦いの物語である。

クリスマス・イヴの銀座の暗黒街で、

裸体に宝石をまとっただけで踊る謎の美熟女、

緑川夫人。

彼女を待つ、みすばらしい青年。

青年は、恋人と恋敵を殺してしまい、抜き差しならぬ状態で、知り合いの緑川夫人に助けを求めた来たのだ。


ストーリーそのものは、

現代の作家でも、魅力的な着想を幾らでも繰り出せる思うが、

真似出来ない、凌駕出来ないのは、

乱歩の文章力である。


肌をなで上げて来るような筆致、

絶妙な語り口が、

暗黒世界を、豊かに描く。

黒蜥蜴は、緑川夫人の腕にある、蜥蜴の刺青からとった題だ。

教養と気品のある、妖艶な美熟女、船を所持するのみか、

東京の地下に盗品を飾った私設美術館を持ち、

神出鬼没、母的・姉御的性格、スリルを好み、美しいものを愛し、

犯罪を愛し、手下を大切にし、嗜虐を好むそのキャラクターは、

マゾヒスト男性でなくとも、大きな魅力を感じる筈だ。

名探偵、明智小五郎に破れ、毒をあおって明智の腕の中で死んでゆくその姿は、

美学に殉じている。



恋人と恋敵を殺して殺人者となってしまった潤一青年は、

知り合いの緑川夫人に助けを求め、

緑川夫人の働きで、

他人の屍体を自分の身代わりにし、

この世に居ない者となる。

が。

緑川夫人は、潤一青年が想像もしなかった、

大犯罪者だったのだ。

以下、やり取りを引用してみよう。

ーーーーーーーーー

「潤ちゃん、あんたは死んでしまったのよ。それがどういうことだかわかる?つまり、今ここにいる、あんたという新しい人間は、あたしが産んであげたも同じことよ。だから、あんたは、あたしのどんな命令にだってそむくことができないのよ」

「もしそむいたら?」

「殺してしまうまでよ。あんた、あたしが恐ろしい魔法使いってこと、知りすぎるほど知っているわね。それに、山川健作なんて人間は、あたしのお人形さんも同じことで、この世に籍がないのだから、突然消えてなくなったところで、誰も文句をいうものはありゃしないわ。警察だってどうもできやしないわ。あたし、きょうからあんたという、腕っぷしの強いお人形さんを手に入れたのよ、お人形さんていう意味は、つまり奴隷、ね、奴隷よ」

潤一青年は、この妖魔にみいられてしまっていたので、そんなことをいわれても、少しも不快を感じなかった。不快を感じるどころか、いうにいわれぬ甘いなつかしい気持ちになっていた。

「ええ、僕は甘んじて女王様の奴隷になります。どんないやしい仕事でもします。あなたの靴の底にだって接吻します。そのかわり、あなたの産んだ児を見捨てないで下さい。ねえ、見捨てないで」

ーーーーーーーーーーー


ウチの人形は、全く奴隷でも何でもないな。。。。それはいいとして。



上記のやり取りは、

マゾヒスト男性でなくとも、

普段「俺、ドS」などと言っている男性ですら、

心の底に秘めた、普段自分自身も覗き込まない暗黒部分を、

そそられる心地がするのではないだろうか。

気品のある妖艶な美熟女に、

「あなたの産んだ児を見捨てないで下さい。ねえ、見捨てないで」と、

甘えて泣いてみたい、と思わないだろうか?

このようにして、

すがって来た犯罪者たちを、

緑川夫人は精神的に支配し、

手下にして行くのであった。

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何か感想が産まれたらしい。



ーーーーーーーーー

「ああ、金持ちも金持ちだけれど、あたしの目的はお金ではないの。この世の美しいものという美しいものを、すっかり集めてみたいのがあたしの念願なのよ。宝石や美術品や美しい人や・・・・・」

「え、人間までも?」

「そうよ。美しい人間は、美術品以上だわ。このホテルにいる鳥っていうのはね、お父さんに連れられた、それはそれは美しい大阪のいとはんなの」

ーーーーーーーーーーーー

金は目的ではない、美のコレクターなのだ。

緑川夫人は、命を助けてやり奴隷にした潤一青年に手伝わせて、

大阪の宝石商の娘、早苗さんを盗み出す。

あらかじめ、眼をつけてあり、夫人は顧客として宝石商と顔なじみになり、

その娘とも親しくなっていた為、

怪しまれない。

薬で眠らせて、裸にして縛り上げて、トランクに詰め込んでホテルから盗み出すのだ。


トランクに詰め込まれた美女。。。。

美青年でも可能である。

これは、実に、昔からある、妄想と夢想の原型の一つである。



しかし、宝石商が警護を依頼した名探偵・明智小五郎の手で、

早苗さんは取り戻される。


が!

賊は、「お嬢さんはあらためて頂戴にあがりますよ」と宣言し、

警察の手を逃れてしまう。

こういう、ねちっこい執念ぶり、

狙われた方としては、

粘着振りが恐ろしくてたまらなくなるような、

ねちねちとした賊は、江戸川乱歩の作品によく出てくる。

そのねちっこさが、

大きな味付けとなっているのである。



宝石商の家は、

厳重に警備され、

お嬢さんはなんと座敷牢に入れられて守られる。

盗まれちゃ大変なのはわかるが、

美しい娘を座敷牢に入れる?


美女、あるいは美青年が、地下の牢に入れられている情景も、

昔からの妄想・夢想の原型の一つであろう。

このように、ささいな所にも、

乱歩のサービス精神が発揮されている。



しかし、厳重な警戒にも関わらず、

わずかの隙をついて、

早苗さんは今度も盗み出されてしまう。

ソファの中に詰め込まれて運び出されたのである。

今度は、明智も阻むことが出来なかった!



と、いう所まで、

無后に読んでやり、

その夜は読書会はお終いにした。


りーあ「どう?興味持った?」

無后「公主が緑川夫人だといいのに」

りーあ「男の人って、みんなそう言うわよね。

私は、緑川夫人とキャラは全く被らないわね〜。

無后、明智小五郎になって、黒蜥蜴と対決したいの?」

無后「いいえ。宝石商の娘に」

りーあ「あ〜、そっちね。

深窓の伶人だものね」

無后「厳重な警戒をものともしないで、

命がけで、二度も誘拐してくれるとは、

強い愛です」

りーあ「愛情じゃないと思うわ。

無后〜、貴方を手に入れる為に、

私は緑川夫人より苦労したのよ。

緑川夫人にとって、盗み・誘拐は手慣れた仕事。

しかも、よく知った日本国内でしょう?

私は、言葉も習慣も違う国で、様子も全く分からない状況で、

一年以上かけてようやく貴方を手に入れたのです。

ハラハラし通しでしたよ」

無后「。。。。。。

思っていたより幸せだったのですね。。。。。。。。」

りーあ「そうです!分かってくれて嬉しいわ」




ところで。

諸氏は、子供の頃、

「誘拐魔に気をつけないさい」と、

親から厳重に注意されていたと思う。


私も子供の頃、

誘拐という犯罪を子供らしく恐れたが、

子供には、誘拐されたらどうなるのか、

知識が無かった。

「サーカスに売られてお酢を飲まされて体を柔らかくされて曲芸をさせられる」

昭和30年頃は、

こうしたイメージであった。


大人になれば、誘拐されるとどうなるか、

都市伝説を含めて様々な知識が入ってくる。

手足を切断されて特殊な趣味の富豪の慰み者にされる、

外国の身内・友人たちとはもう一生会えない環境で、工作員の日本語教育係にされる、

子供の居ない外国の富豪の養子にされる、

変態ビデオに出されて、最後は殺されてゆくシーンをビデオに撮られる、

変質者の家に監禁されて飼育される、

あるいは、ただ単に、殺人狂に殺されてバラバラにされて山に捨てられる、

等々、

「それは嫌だな」

と思う事例は沢山浮かぶであろう。



美しいものを集めるのが好きな黒蜥蜴は、

誘拐した美男美女をどうするか?


裸にして檻に閉じ込め、

鑑賞し、

飽きたら、

巨大水槽に放り込み、

苦しみながら溺死する所を鑑賞し、

死んだら剥製にして、

私設美術感に陳列し、鑑賞するのだ。



大抵の子供が、

「それは嫌だな」と思うような、

最大公約数を巧みに突いているのである。

しかも、相手が、

それを大変楽しんでいるというのが、

物凄く嫌ですね。

泣いても喚いても、怯えても、怒っても、

相手は、嗜虐趣味を満喫して眺めるのだ。





大人になっても、

そうした幼時の、

冒険心、犯罪者への恐怖と好奇心、

誘拐されたらどうなるか、の恐れの記憶は

多くの人の心の中に眠っているであろう。

それをシンプルだが巧みに突いて来て、

大人も、子供の頃のような気持ちで、

江戸川乱歩を読めるのである。




























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by leea_blog | 2017-04-25 21:44 | Comments(2)
Commented by さらさ at 2017-04-27 02:43 x
宮無后との読書会、いいですね。
画像の宮がだんだんと読むことに集中し始め、人間らしくなってきました。
読み聞かせ後の感想も、とっても宮らしい。
ようやく自由の身になれたのに。
愛されているのか、必要とされているのかが心配で、「2回の誘拐」に心惹かれてしまうのかしら。

もしかしたら宮は好きなタイプはグイグイ来る人?
と、なるとりーあさんはグイグイと読書の読み聞かせをするしかないですね。
朝、起きたら素還真と二人で「今日の一冊」を探し終えて、テーブルの上に置いているかも。
お人形なのはわかっていますが、飾るだけでなく一緒に暮らす間柄なので、そのくらいの気配りもいつかは起こるかも。
お時間と体調のよろしい時にでも「読書会、第二回」を開催してください。
ブログでの様子を楽しみに待っています。


「黒蜥蜴」は初めて読んだ乱歩作品でした。
言葉使いが今よりも粋だったり繊細だったり、大人になったら緑川夫人のようになりたいと
真剣に望んだくらいです。
凡人の私には無理と悟り(宝石に縁がない)、紋章として黒蜥蜴を掘る勇気もないですが。

「ひとでなしの恋」読みました。
奥さんには悪いけど、人形とのおつきあいの方が長いし、勝てない相手ですね。
事情を知らずにお見合いであっても、ご主人のことを好きになりかけていた新妻の辛さ
難しい問題ですね。若夫婦と人形三人で暮らす方法は同時では受け入れられないみたいだし。


横溝正史の「蔵の中」をご存知ですか?
短編ですが、淫靡と耽美が入り混じった作品で好きです。
長文、失礼しました。
Commented by leea_blog at 2017-04-28 15:58
> さらささん
中国語検定合格、おめでとうございます!努力の賜物ですね^^次をめざして、頑張ってくだされませ^^

無后は、グイグイくるタイプが好きかもしれませんね。考えてみたら、煙都から強奪され、それが愛ゆえだったら、彼の人生も変わっていたかもしれませんね。自分では、煙都から逃げられそうも無いし。

グイグイ読書の読み聞かせ、良いですね!
今日の一冊をテーブルの上に置いてくれるようになったら、素敵です^^

おお〜、
さらささんが初めて読んだ乱歩が、「黒蜥蜴」でしたか!
名作ですよね。 特に猟奇趣味ではない人々にも広く支持されている作品ですね。

緑川夫人は、本当、魅力的です。自分の運命を、グイグイ自分で切り開いていく。
何と言っても、悪事?を支える莫大な財力〜!!!
船持っているとか、こうなると普通の探偵や警察は、追えないですよ〜
↑ 財力的に、私には無理;;

「人でなしの恋」、語り口が絶妙でしょう?
人形相手では、勝ち目無いですね^^
しかも、人形師が魂を込めた、稀代の名品とあっては。
今となっては、私も夫の気持ちが痛いほどわかります。

現代にも、フィギュアや二次元を「嫁」と称する人たちがおりますが、
結婚相手は、夫の趣味を許容するしか無いと思いますね^^

「蔵の中」、話題にあげて下さりありがとうございます。大昔読んだきりです。再読すると、絶対面白そう、と、部屋を探し中。映画になったのも、観た記憶が。昨日、ネットで映画の「蔵の中」を見直してみました。耽美で、妖しい映像!姉さんと弟が美形だったら、もっと良かったのに、と失礼な感想。

文章は、自分で色々ツボな映像化が出来るので、最強ですね。本を探して、再読してみます^^
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