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江戸川乱歩「虫」あらすじ。名探偵も怪人も出て来ない乱歩ワールドの事



江戸川乱歩を再読しています。

間違っても「日本文学全集」には出て来ない乱歩ですが、

「駄菓子屋と思って入ったら、

店の奥の暗がりに名工が座っていた」

という感じで、

言葉を自在に操る熟練の技に、

感嘆する次第です。


語り口そのものに、

ぐいぐい引き込まれて行きます。

江戸川乱歩の短編に、

「芋虫」という名作があります。

が、「虫」という短編も素晴らしい事は、

見落とされがちです。

これでもかと詰め込まれた異様な場面、

おかしくなって行く殺人犯の様子、

どうなるか分かっていても、

もう読み進めるしかない、

語りの妙。


あらすじをのべますが、注意です。

グロテスクな描写があります・苦手な方はこの先は読まないでください。


紹介のために文章を引用しながら、

気持ちがすっかりめいった次第。




何か、禍々しい事が起こりそうな予感を掻き立てながら、

主人公の柾木の性格から語られます。

「世にたぐいあらぬ厭人病者」で、

それはどこからきたか、と、彼の幼少時代に視点が当てられます。

極度に内気で、複雑な感受性を持った、

人と関わるのが苦手な、子供。

異様な筆致で描き出されてはいても、

どこのクラスにも二人や三人は、居ました。

柾木は、フェティシストでもあります。

子供の頃、恋する女の子の筆箱からちびた鉛筆を盗み出し、

鉛筆を崇めました。

彼がフェティシストである点も、

後に語られる事件を最悪にしてしまう、伏線です。

が!

好きな相手の鉛筆を失敬して大切にするたぐいの事は、

多かれ少なかれ、大抵の人に心当たりがあるのではないか?


つまり、巧みな筆致が禍々しく描き出す奇怪な人物像は、

何処のクラスにも居た、何処にでも居る、

我々の隣近所にも居る、あるいは一歩間違ったら我々もそうなるかもしれない、

という、人物なのです。

大人になってひっそり誰にも会わずに暮らしている人も、

都市部だと、幾らでも居ます。


ちなみに、

私も、現在の住まいでは、

地元や隣近所との交際は無く、

一日中家に居り、夜のお仕事でも無さそうな、

「あの人一体どういう人かしら」と思われるような、

謎の人かも知れない。

ウチのアパートは、見事な位、

隣に誰が住んでいるのか、分かりません。

ピリのDVD等を見ていると、

音が漏れ聞こえて、左右両隣には、

「外国人」だと思われているかも知れない。


話は戻って。

両親の死後、幾ばくかの遺産を得て、

柾木は、荒れ果てた屋敷を買い入れ、

身寄りのない婆やを雇い、

蔵の中で人と関わらずに暮らします。


ここまでは、人嫌いが人の迷惑にならずに暮らし、

少し変わった人でしかありません。


そんな柾木にも、例外的に、

たった一人の友人が居ます。

小学校時代の同級生、池内です。


こちらは、柾木とは反対の性格で、

社交的、活発、モテる系です。


そして、

池内は、柾木を、

やはり小学校時代の同級生、

今は華やかに舞台女優をやっている、

木下芙蓉に、引き合わせるのです。


ああ。木下芙蓉こそは、

柾木の、人知れぬ幼い恋、初恋の、彼女の鉛筆を盗んで神と崇めた、

その人でした。



この辺りで、

彼等がどうなるか、

つまり、柾木が芙蓉を殺害する事が語られます。


読者は、結末がどうなるのかを知らされ、

あとは、そこに至る経緯を、興味深く読み進め、

「虫」というタイトルは、大方柾木の存在の比喩であろう、等等、

思うとも無く思うでしょう。


が!

本当のクライマックスは、

そこじゃないんだなあ〜。


殺害が山場だと見せかけて、

実はもっと酷い話なんだなあ〜。


「それ以来、世間に知られているところでは、柾木愛造が木下芙蓉を殺害したまでの、半年ばかりのあいだに、この二人はたった三度(しかも最初の一ヶ月のあいだに三度だけ)しか会っていない。つまり、芙蓉殺害事件は、彼らが最後に会った日から、五ヶ月ものあいだをおいて、彼らがお互いの存在をすでに忘れてしまったと思われる時分に、まことに突然に起こったものである。これはなんとなく信じ難い、変てこな事実であった。それなればこそ、柾木愛造は、兇行後、あんなにも長いあいだ、警察の眼を逃れていることができたのである。」

と、巧みに語られて行きます。


木下芙蓉は、今は人気の舞台女優。柾木が相手にしてもらえるのも、単に小中学校が同じだから。

異性としては全く対象外にしか見えていないのですが、

柾木は、これも困った事ですが、

気持ちを隠しておけませんでした。


普通にコミュニケーションが出来ないタイプなので、

芝居がはねたあと、出口で待ち伏せして、車に乗せ、

車が暗い町に入ったあたりで、柾木は黙ったまま芙蓉の手に、

彼の手を重ねてだんだん力を込めて行きます。

彼女は手をすり抜け、まじまじと彼を見つめていましたが、

笑い出します。彼女の笑いに連れて、柾木も、笑い出します。

心は絶望に落ちながらも。。。。


これを機に、柾木は芙蓉を、女性の代表として憎みます。


女性からすると、

「ひ〜、こ、怖い!こういう頭がおかしい奴は事前に刑務所に放り込んで!!!」

と、思うでしょう。


だってね、

共通の友人、社交家の池内を介して、

二度しか会っておらず、

二人きりになったのは始めての車内で、

普通に口説きもしないで、手を重ねて力を入れてくる、

それが全人生をかけた恋の表現だなんて、

女性からすると、

怖過ぎます。


そこには、男女間の通常のコミュニケーションが不在で、

どろどろとした、柾木だけにしかわからない、

一方的な思い込みという、

暗黒の腐敗した沼が広がっているのです。


正直、乱歩の時代、

親しくない異性から手を重ねて無言で段々ちからを込めて来られたら、

芙蓉は女優なので他人から愛されるのが慣れっこになっていたから笑って済ませられるでしょうが、

一般女性だったら、

車の窓を開けて大声で通行人に助けを求めると思います。

あるいは、

「何をするの、この気○○い!」と相手を叩くでしょう。



男子読者は、

女子が直面する恐怖を、想像しながら読む事をお勧めします。

柾木は、芙蓉を激しく憎み(いやいや、口説きもせずに手を重ねたら普通振られるよ)、

しかし、小学校以来の激しい片思いの情を捨てられず、

密かに彼女の芝居に通い、

楽屋口でこっそり待ち伏せ、

社交家の池内と芙蓉が二人で宿にしけこむのを確認します。

そこまではあるかもしれないけれど、

ここからがストーカー。

柾木も、その旅館に泊まり、夜が更けるのを待って、

二人の部屋を突き止め、彼らの会話を盗み聞きします。


「それ以来、彼が殺人罪を犯したまでの約五ヶ月のあいだ、柾木愛造の生活は、尾行と立ち聞きと隙見との生活であったといっても、決して言い過ぎではなかった。そのあいだ、彼はまるで、池内と芙蓉との情交につきまとう、不気味な影の如きものであった。」

ただの人嫌いの思い込み野郎かと思ったら、

このストーカー行為に依り、彼の異常な性格が、段々目覚め、育てられて行くのです。

「世にも忌まわしき立ち聞きと隙見とによって覚えるところの、むず痒い羞恥、涙ぐましい憤怒、歯の根も合わぬ恐怖の感情は、不思議にも、同時に、一面においては、彼にとって、限りなき歓喜であり、たぐいもあらぬ陶酔であった。彼ははからずも覗いた世界の、あの凶暴なる魅力を、どうしても忘れる事が出来なかった」


このように、柾木の狂気はエスカレートし、彼は車を買い求め、座席の後に、人一人を隠せる空間を造ります。


「またある晩は、たった一度ではあったけれど、彼は大胆にも、木下芙蓉の散歩姿を、自動車で尾行した事もあった。もしそれが相手に見つかったならば、彼の計画はほとんどだめになってしまうほど、実に危険な遊戯であったが、しかし、危険なだけに、柾木はゾクゾクするほど愉快であった。洋装の美人が、さも気取った様子で、歩道をコツコツと歩いて行く。その斜め後ろから、一台のボロ自動車が、のろのろと付いて行くのだ。美人が街角を曲がるたびに、ボロ自動車もそこを曲がる。まるで紐につないだ飼い犬みたいな感じで、まことに滑稽な、同時に不気味な光景であった。「ご令嬢、ホラ、うしろから、あなたの棺桶がお供をしていますよ」柾木はそんな歌を、心の中でつぶやいて、うすき実の悪い微笑を浮かべながら、ソロソロと車を運転するのであった」


こ、怖いよ〜。

現代では、都市部には、

「気をつけよう 痴漢 誘拐 ストーカー」と、

看板が立っているほど、ストーカーという言葉が一般的になっています。

乱歩の描くストーカー心理は、色褪せるどころか、

時代とともに生き生きとしているかのようです。


そして、芝居がはねたあとの芙蓉の行動パターンを把握した柾木は、

自家用車をタクシーに見えるように偽装し、

ついに殺人結構の日を迎えます。

「なんというはればれとした夜、なんという快活な彼のそぶり。あの恐ろしい犯罪へのかどでとしては、余りにも似合わしからぬ陽気さではなかったか。だが、柾木の気持ちでは、陰惨な人殺しに行くのではなく、いま彼は、十幾年も待ち焦がれた、あこがれの花嫁御寮を、お迎いに出かけるのだった。」

こええ〜。

ついに、彼はタクシーと勘違いした芙蓉を車に乗せ、曲馬団の前の耳を聾する音楽が溢れた場所で、車の窓のシェードを降ろし、芙蓉を殺害します。

「許してください。許してください。僕はあなたが可愛いのだ。生かしておけないほど可愛いのだ」

彼はそんな世迷い言を叫びながら、白い柔らかいものを、くびれて切れてしまうほど、ぐんぐんと締め付けていった」


気持ちの悪さ爆発の、名セリフと言えましょう。

死ぬ前に、こんな自己中過ぎて気持ち悪さ爆発のセリフを聞かされるなんて、想像しただけで嫌すぎますね。

そして、柾木は彼女の屍体を、

自宅の土蔵に運び込みます。

そして、遂に自分のものとなった憧れの女神と、二人きりの時間を楽しむのです。

フェティシズム、ストーキング、覗き、殺人、と、

みっちり狂った要素を詰め込んだこの短編は、

いよいよ佳境にさしかかります。

以下。


「最初の予定では、たった一度、芙蓉を完全に占有すれば、それで彼の殺人の目的は達するのだから、夕べのうちに、こっそりと死骸を庭の古井戸の底へ隠してしまう考えであった。それで充分満足する筈であった。ところが、これは彼の非常な考え違いだったことがわかってきた。

 彼は、魂のない恋人のむくろに、こうまで彼を惹き付ける力が潜んでいるとは、想像もしていなかった。死骸であるがゆえに、かえって、生前の彼女にはなかったところの、一種異様の、人外境の魅力があった。むせ返るような香気の中を、底知れぬ泥沼へ、果てしも知らず沈んで行く気持ちだった。悪夢の恋であった。地獄の恋であった。それゆえに、此の世のそれの幾層倍、強烈で、甘美で、もの狂わしき恋であった。

彼はもはや芙蓉のなきがらと別れるに忍びなかった。彼女無しに生きて行く事は考えられなかった。この土蔵の厚い壁の別世界で、彼女のむくろと二人ぼっちで、いつまでも、不可思議な恋にひたっていたかった。そうするほかにはなんの思案も浮かばなかった。」



当初の予定では、自由にしたあとの屍体は、庭の古井戸の底に埋めてしまうつもりだったのに、

何と、何と、彼自身も想像出来なかった事ですが、

屍体の方が、生きている時よりも好ましく、

もう、離れ難くなったしまったのです。

このあたりは、元々フェティシストだった描写が、伏線となっています。


ここまで来ると、ほとんどの読者は、寄り添って読む事が出来ないでしょう。

もう、茫然とし、予測される恐ろしい事態が頭をかすめながらも、

こわばったまま読み進めるしかありません。

彼は、そして、思い至ります。

屍体が、どのような変化を遂げる事になるかを。

そして、朝の光の中で、屍体を吟味します。

一夜明けた屍体の様子が、詳しく描写されます。


虫。

この短編のタイトルですが、

これは、屍体を損なって糜爛させてゆく、眼に見えない微生物の事だったのです。

ここで終わりにしても収まりがいのですが、

乱歩の凄いところは、


これがまだ始まりに過ぎない点です。



生きている時より恋しい屍体と向き合う殺人者の、恋と恐怖と、狂気が、

しつこく描写されます。


「まだ間に合う!すぐに古井戸に埋めろよ!」との読者の叫びは虚しく、

彼は、車を飛ばします。

「賑やかな通りへ出ると、その辺に遊んでいた子供たちが、運転手の彼を指差して笑っているのに気づいた。彼はギョッとして青くなったが、次の瞬間、彼が和服の寝間着姿のままで車を運転していたことがわかった。なあんだと安心したけれど、そんな際にも、彼は顔を真っ赤にしてまごつきながら、車の方向を変え始めた」


「大急ぎで洋服に着替えて、再び門を出た時も、彼はどこに行こうとしているのだか、まるで見当がついていなかった。そのくせ彼の頭は、脳味噌がグルグル回るほど忙しく働いていた。真空、ガラス箱、氷、製氷会社、塩漬け、防腐剤、クレオソート、石灰酸・・・・。屍体防腐に関するあらゆる物品が、意識の表面に浮かび上がっては沈んで行った。彼は町から町へ、無意味に車を走らせた」


絞殺までは予定通りだったけれど、

全く予想しなかった屍体愛に目覚め、屍体は刻一刻と変化する、そのどうしようもなさが、実に生き生きと描写されています。


狂って行く彼の行動をじっくりと描写し、うろうろとじりじりとする彼は、やがて、

大学病院脇の医療機器店に車を止めます。

「ポンプを下さい。ホラ、屍体防腐用の、動脈へ防腐液を注射する、あの注射器ポンプだよ。あれを一つ下さい」


店員にありませんとか、何に使うんですかといぶかしがられたりしながら、代用品と防腐液を入手して、蔵に戻ります。



「ギャッと叫んで逃げ出すほど、ひどくなっているのではいかと、柾木は息も止まる気持ちで階段を上がったが、案外にも、芙蓉の姿は、かえって、朝見たときよりも美しくさえ感じられた」


「柾木はすっかり安心した。さっきまでの焦燥がばかばかしく思われて来た。「もし芙蓉のこの刹那の姿を、永遠に保つ事ができたら」かなわぬことと知りながら、彼は果敢ない願いを捨てかねた」


医学上の智識も技術も持ち合わせなかったけれど、ものの本で動脈から防腐剤を注射して全身の悪血を出してしまう方法を読んだ事をたよりに、ともかくそれを、婆やに気づかれぬようにやることにします。

全く駄目で、彼は夜遅くまで格闘しますが、失望の隙に睡魔が入り、昏倒するように眠ります。

更に翌朝!

更に屍体は変化しています。死後硬直が解け、全身に夥しい死斑が現れています。


「幾億とも知れぬ極微なる虫どもは、いつ増えるともなく、いつ動くともなく、まるで時計の針のように正確に、着々と彼らの領土を侵食して行った。彼らの極微に比して、その浸食力は実に驚くべき速さだった。しかも、人は彼らの暴力を眼前に眺めながら、どうする事も出来ないのだ。手をつかねて傍観するほかはないのだ。ひとたび恋人を葬る機会を失したばかりに、生体に幾倍する死体の魅力を知り始め、痛ましくも地獄の恋に陥った柾木愛造は、その代償として、彼の目の前で、いとしい恋人の五体が、戦慄すべき極微物のために、徐々に、しかも間違いなく蝕まれて行く姿を、拱手して見守らなければならなかった」



「生体に幾倍する死体の魅力を知り始め、」←いやいや、普通無いから!!!

ここで止めれば良いものを、柾木は、死骸に化粧をして上辺だけでも綺麗にし、死体への愛を一分でも一秒でも長く楽しもうとします。

大急ぎで胡粉と刷毛を買ってきて(胡粉は、日本画の顔料で、白)死体の全身を白く塗りつぶします。

「最初はただ死斑や陰気な皮膚の色を隠すのが目的であったが、やっているうちに、死体の粉飾そのものに異常な興味を覚え始めた。彼は死体というキャンバスに向かって、妖艶なる裸像をえがく、不思議な画家となり、さまざまな愛の言葉をささやきながら、興に乗じては、冷たいキャンバスに口づけをさえしながら、夢中になって絵筆を運ぶのであった」

いま死体を埋めてしまえば、

まだ間に合うのに、また狂った新しい死体の美に、のめり込んで行くのでした。


「三日ばかり小康がつづいたあとのは、恐ろしい破綻が待ち受けていた。」

「ある日、長い眠りから目覚めた柾木は、芙蓉の死体に非常な変化が起こっているのを見て、あやうく叫び出すところであった。

そこには、もはやきのうまでの美しい恋人の姿はなくて、女角力のような白い巨人が横たわっていた。体がゴム鞠のようにふくれたために、お化粧の胡粉が相馬焼みたいに、無数の亀裂を生じ、その編目のあいだから褐色の肌が気味悪く覗き、顔も巨大な赤ん坊のようにあどけなくふくれあがっていた」


「ついに最後が来たのだ。死体が極度まで膨張すれば、次ぎに来るものは分解である。皮膚も筋肉も液体となって、ドロドロと流れ出すのだ。柾木はおびやかされた幼児のように、大きな潤んだ眼で、キョロキョロとあたりを見回し、今にも泣き出しそうに、キュッと顔をしかめた。そして、そのままの表情で、長いあいだじっとしていた。」


そして、頭に木乃伊という言葉が浮かび、製法の載っている本を探し出します。

さて。もうすでに、緊張と恐怖と恋情で、彼の頭は限界でした。

「なんだっけなあ、なんだっけなあ」と、ど忘れした人のようにつぶやいて、突然急いで外に出、隅田川の濁水を埋め尽くす微生物の幻影を見ながら、「どうしようなあ、どうしようなあ」と、心の苦悶を声に出します。

石につまづいて倒れ、立ち上がる代わりに、一層身を低くし、土の上に這いつくばって、誰にともなく丁寧なおじぎを繰り返します。

人が集まって来て、親切な警官が助け起してくれたので、彼は、自白しますが、警官は笑うばかりで取り合いませんでした。

それから数日の後、柾木がまる二日食事に居りて来ないのを婆やが心配して家主に知らせ、家主から警察に連絡が行き、開かずの土蔵は、警官たちに依って開けられました。

むせかえる臭気と夥しい蛆虫の中に、二つの死骸が。

「柾木愛造は露出した芙蓉のはらわたの中へ、うつぶしに顔を突っ込んで死んでいたが、恐ろしいことには、彼の醜くゆがんだ、断末魔の指先が、恋人の脇腹の腐肉に、執念深く食い入っていたのである。」


おしまい。。。。


プロの怪盗とプロの名探偵がちょうちょうはっしとやりとりする話も見どころが満載ですが、

こうして、怪盗も名探偵も出て来ない、最悪の形での破滅しかない異常な短編の中にも、

言うに言われぬ乱歩の底力が、みえるのでした。


























by leea_blog | 2017-07-04 17:29 | Comments(6)
Commented by sherry at 2017-07-04 21:59 x
さっすがりーあさん
私はWord一枚だけでもすごく時間かかるのに
りーあさんは一日だけで、こんなに長文を書いたとは
すごい!@.@
やはい編輯者であることですね〜
Commented by leea_blog at 2017-07-04 22:18
お褒めに預かって照れくさいです^^

いや〜、ブログにアップする文章は、

下書きも推敲も無く、

何も考えずに書いているだけなので、

速いです^^

冊子にして残すような作品だと、

やはり、悩みながら書いていますよ〜^^

Commented by 八点鐘 at 2017-07-13 20:57 x
こんばんは

探偵小説マニアとしての乱歩、即ち読み手としての彼は、論理を主体にした作品を好む傾向が強かったのかなという感じですが、自身の実作に関しては、変格とか奇妙な味(本人命名のトリック・内容の分類区分)なる作風が多く、それの評価が高いといえるかも知れません。※デビュー作「二銭銅貨」や明智小五郎の登場する「心理試験」などは、理詰めの展開(都筑道夫のいう“論理のアクロバット”が鮮やかに効いた)ですが。

しかしともあれ、語弊を顧みずに述べてしまえば、江戸川乱歩という人物はもしかすると、軽くサイ○パスな面を持っていたのでは、という気も致しております。情緒というか、他人の感情を、頭で理解・習得しているのみ、といった様な。そもそも、文豪とか芸術家なんかには結構多いのかも知れませんし。

普通の(即ち私の如き凡人は)、まず常識を基本に備えた身の上を以って、異常な状況を発想し生み出そうと致します。だから、どうですか、コレ! 凄いでしょ? といったドヤ顔になりがちで、そこが乱歩は、主体が異覚(造語w)で、従(創作による描写)が常覚だと。
だから、異と常の境界が本当に靄か濃霧の中みたいに曖昧模糊として、いわば嫌味のない?迫力が滲むのではなかろうかと。

分析なんてものは、全く蛇足も蛇足、いや寧ろ、表現を丸ごと、丼の底まで味わい尽くすのには却って邪魔モノ、旨い飯食う時に箸の上げ下げや足の組み方はいざ知らず、栄養やカロリーなんざいちいち気にしちゃいられねェ訳ですが、文章にするとなるとどうしても(私の場合は^^;)、で、御座います(笑)


それでは、また^^
Commented by leea_blog at 2017-07-13 22:59
> 八点鐘さん
サイ○パスや、様々な名称で分類される特徴を持った人は、
文学美術系の人には、いかにも多そうですね。


と、他人事のように書いている私も、「精霊フェチ」とか、色々、突っ込まれると親類縁者が困りそうな、暗部を抱えているのですが^^; 

私が見るに、乱歩は、他人の感情は、共感を持って寄り添う、「叙情的」と読めます。その「叙情的湿っぽさ」、「異常な状況への湿度を持った寄り添い方」が、特徴のひとつかな、と。

そうそう、主体が「異常な方」で、創作による描写が従だとは、まさにその通りですね。

アイデアで勝負する作家は、やはり、「どうですか、コレ!凄いでしょ?」的なドヤ顔が、文章の裏側から滲み出てしまうため、私は醒めてしまうのです。


小説は料理や酒で表現すると分かりやすいですね。アイデアで勝負する作家は、いわゆる、「創作料理」の、「なんちゃってエスニック」みたいなものかな、と。アイデアは良いけど、読者を酔わせられない、という。

拙ブログで、乱歩のエッセイ「残虐への郷愁」に触れましたが、

http://leea.exblog.jp/25706344/

戦争と芸術だけが残虐への郷愁を満たす、と、あり、タブーの深淵の暴き方が、巨匠は違うなあ、と、あらためて感心した次第です。

ちなみに、筒井康隆氏は乱歩に見いだされた人なのですが、
ネットでは炎上したりしていますね。
ネット民も、筒井氏のアナログ本を読めば、意見が変わると思うのですが、
ネットは色々な意味で怖いものだ、と感じた次第。






Commented by 八点鐘 at 2017-07-13 23:57 x
ふたたび^^

>「異常な状況への湿度を持った寄り添い方」が、特徴のひとつ
いや、なるほど確かに、仰る通り。僭越ながら私も、それを感じます。
(大事にしようとはするけれど、子供の扱い方がとても下手?苦手そうだった、という、ご子息である隆太郎氏の文章を一度読んだ事があって、それで=それ一つの材料で^^;、まあサ○コはいかにも大げさながら、感情や感覚で接するタイプではないのかなと、思ってみた訳です)

ところで、「残虐への郷愁・タブーの深淵」も拝読致しました。

“人間の尊厳”、これも仰せの如く、(例えば体制が)世人を操る為に利用すべく生み出した『幻想』の一つ、かも知れませんね。

まあ、この世自体が、夢の浮橋などと申しますし、人間というのは、最初から騙されて“ココ”にいるのかも知れず、ついつい『騙されるものか』、とか、私は何も信じない、拠り所にしない、みたいに虚無を気取ったりする事もある訳ですが、端っからもう、今この場で“人間”として生きている(つもり)自体、ころりと騙され切っているのかも知れませんし――といった、持論めいた意識さえもあったりしつつ。

どのみち騙されている、或いは騙されてナンボであるのなら、一種諦めて開き直り、色々笑い飛ばしている方が幸せかも、なんて^^

何度も失礼致しました。
Commented by leea_blog at 2017-07-14 19:12
> 八点鐘さん

ああなるほどです^^
リアルの対人関係は、あまり上手ではなかった、という文豪、多いですね〜

芸術の才能を授かった分、
いわゆる、まっとうな対人スキルまで脳の配分が行き渡らなかった、というか、
欠落してしまっている人、多いと思います。

子供の頃、最初に父に教えられた天才はゴッホだったのですが、
素晴らしい才能だ、でも、切り落とした耳を送られたら
嫌だなあ、と思いました。

対人スキルの低い文豪の家族は、色々大変だったと思います。

伝記で読む分には面白くても、
実際近くに居たら嫌だなあ、と^^;


と、他人事のように書いていても、
恐らく私も家庭を持っていたら、
プライベートでは、
普通の人と結婚したら、
結構家族を不幸にする奴だったと思いますね^^;

そういうつもりが無くても、
結果としてそうなっちゃう。

そういう訳で、
自分を知っている私としては、
「女性様に尽くすタイプ」が好みなのかもしれません。



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