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日本語の問題。 文章を破壊しつつ再構築する眼差し、を思い出した事


閑話休題、その二。

 渇水が心配されたのもつかの間、遅れを取り戻すに十分な雨が続いた。しとしとと降り続く梅雨のイメージを裏切って、豪雨が多い。

 今日もそうだったが、雨の合間に陽が出ると、ムキになっているかのような照りつけ方である。ワタクシの部屋はサウナ状態、仕方なく苦手なクーラーのスイッチを入れた。嫌いなんだよね、この、不自然に骨の髄が冷える感じ。夏の疲労物質が、筋肉の隅々に重く沈んだままになるような冷え方。

 ところで。文体についてつらつら考える。

 外国の人の日本語ビジネス文書を添削した。ネイティブ日本人が見て不自然な所を直すのだが。考え込んでしまった。と、いうのも、母国語の文法の癖をひきずっていて、なかなか面白いのである。

 直したくなかった。文の構造や助詞が微妙にめちゃくちゃで、ビジネス文書としては意味が通じない。直さねばならない。本人の意図する内容を、正確に伝えていないからである。
 が。文芸として、意図的にこんな文にしたとしたら、面白いのである。良い味を出しているのだ!!
 ワタクシは書いた本人を前に、紙を見つめたまましばし沈黙した。自分でも、その沈黙が長すぎるのに気づいていた。頭の中の、【正確に物事を伝えるための文】をチェックする部分と【通常の文章では表現し切れぬ事の還元装置としての文章】(←りり山定義)を評価する部分が同時に反応して、頭の中で議論を始めたのだ。

 勿論、仕事なので優先させねばならないのは前者である。しかも、先方さんは日本語を知り尽くしてレトリックとして混乱を極める文体にしたわけではない。たまたま、偶然にワタクシの心を刺激する味のある表現になってしまっただけだ。詩人の言いしれぬ文体構築力が生みだした技とは、根本的に異なるのである。「面白い!」と感嘆している場合ではないのは分かっている。

 が、「あ、この表現は面白いですね!」と言いたいのを呑み込むのに時間が掛かった。それを口にすると「面白いけど、それはあくまで日本語の深部を知り尽くした上で技法としてやった場合ですね」と続けねばならないし、「確固たる物があって自分の必要上やるなら、ほんの一文字入れ替えただけで、平たいものがとたんに多重の空間や時間を提示し暗示するようになります」と続けねばならない。さらに「それはブンガク、特に詩の人たちが強い関心を持ち探求する、一般的には辺境と呼ばれる領域です」、と、続き、ちょっと表現者でも何でもない海外の人と短い時間で仕事中にする話ではなくなるのだ!

 さらに。誤解を避けるため「意味の通りにくい表現を使った作品は、日本の現代詩ではちょっと一般的ではないですけどね」、とも付け加えねばならないだろう。相手を混乱させるだけである。

 しかたなく、日本語の特徴や、伝えやすい文章のコツを話しながら手を入れた。良心が少し痛んだ。もしかしたら、相手の潜在的な表現能力の芽を駄目にしているかもしれない、と思いつつ。
by leea_blog | 2005-07-10 03:09 | Comments(0)
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