2017年 12月 05日 ( 1 )

夢野久作 昭和初期の二次元愛も語られる「押絵の奇跡」


夢野久作を再読しています。

ネタバレ有りです。


若い頃は、一人称の饒舌体が苦手で、
するりと頭に入って来ませんでした。

しつこい、絡み付くような、饒舌体も、慣れれば、
夢野ワールドを堪能できます。

夢野久作といえば、
長編「ドグラマグラ」が有名ですが、
短編集も、短編の持ち味を存分に活かしてあり、
面白いです。


それにしても、一昔前の小説は、
現代で言えば人権尊重の視点から使えない言葉がガンガン飛び出します。

特に、「キチガイ」。

夢野の作品には、狂人が沢山出て来ます。

精神病についてまだまっとうな理解が無かった時代なので、
夢野の作品に登場する精神病者は、
知識の無い世間の人が想像するような、
奇怪なものです。

読むうち、何が正常で何が異常だか、
分からなくなって来るのも、夢野の醍醐味。

色々紹介したい短編も多いのですが、

今日は、江戸川乱歩が絶賛した、
「押絵の奇跡」をご紹介します。


「押絵」といえば、江戸川乱歩にも、
「押絵と旅する男」という、名短編があります。

過去日記でもご紹介しました。
以下 ↓



江戸川乱歩「押絵と旅する男」あらすじ。日常が異界と交わる時空。二次嫁?

http://leea.exblog.jp/25961892/

(拙ブログでは、セキュリティーの観点から直接リンクが貼れません。URLをコピペして飛んで下されたし)


押絵というのは、ちょっと厚みを持たせた細工物で、
厚みがある分、現代で増えているような、
「二次元」「二次嫁」といってしまっていいものか、
微妙ですが、絵に惚れてしまうという点では、
同じでありましょう。


さて、夢野久作の「押絵の奇跡」は、
歌舞伎の名優に宛てたある女性の長い手紙、という体裁を取っております。

読み終わって、はたと気づくと、
「その手紙の内容そのものも、
彼女の頭の中で繰り広げられた妄想かもしれない」と、
思わせるような、奇怪な、熱病のような、手紙なのです。


最初は、
女形の名優に惚れてしまった一ファン、すこし気が変?かと思って読めば、
女形は、なんと、主人公の母に似ていたのです。

そして、主人公トシ子は、
女形の父にそっくり。


き、兄妹???

いやいや、血を分けない兄妹???
一体どうなっているの???

と、主人公の母と、女形の父の、
抑圧の愛が語られるのを読み進めます。

女形の父に、トシ子の母が出会ったのは、
結婚後でした。

昔は恋愛結婚でも何でも無かったので、
結婚後に好きな人が出来てしまうことも、
あったわけです。

大変ですね。

そして、トシ子が生まれます。

育つうちに、トシ子は、歌舞伎俳優に似て来ます。

父は、妻の不貞に気がつきます。

母を詰問しますが、母は答えます。

「不義を致しましたおぼえはもうとうございませぬが・・・
この上のお宮仕えは致しかねます」

父は信じません。

父のやいばに掛かって、母は死んでしまいます。

父も、切腹して果てます。

トシ子は、
母の「不義を致しました覚えは無い」との言葉が引っ掛かります。


不義の子で無いとしたら、
なぜ似ているのか???

ここからが、二次元愛。

「男と女とが、お互いに思い合っただけで、その相手によく似た子供を産んだり生ませたりすることが出来る」

上野の図書館で、トシ子は、明治時代に医学博士が西洋の書物から翻訳した、
「法医学夜話」という本を探し当てます。

西暦1866年。
スコットランドの貴族が、美しい若妻を娶ります。
しかし、生まれた赤子が黒髪で、
両親の血統に黒髪の人は居ない、
不義密通である、と追い出され、
実家に戻って、
黒髪の美青年の肖像画の前で息絶えます。


医師兼弁護士タリスマン氏は、
画面上の新旧幾多の接吻頬ずりのあと、
涙の痕跡、画面に身を支えた指の跡と夫人の身長指紋その他が完全に一致するので、
夫人が兼ねてよりこの画像にかなわぬ恋心を捧げていたのである、と、
立証します。


その恋心故、
黒髪の赤子が生まれたのだ、と言う、話ですね。


トシ子は思います、
母も、不義密通はしなかったが、
歌舞伎俳優を恋していた。

そして、そっくりのトシ子を生んだ。

歌舞伎俳優も、トシ子の母が好きだった。
そして、妻に、トシ子の母そっくりの子を産ませた。


と、まあ、
遺伝子その他諸々の解明が進んでいる現代では、
荒唐無稽過ぎてネタにもならなそうですが、

夢野の筆致で語られるうちに、


そういう事があったら、
不便だし、
あるいは、密かに素敵なことかもしれない?と、思うこと請け合いです。



いやはや。

死後に、
絵への頬ずりの跡、接吻の跡、涙の跡その他が法廷で明らかにされてしまうとは、
それは避けたいものですね。



















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by leea_blog | 2017-12-05 11:38 | Comments(0)