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エルベレス ギルソニエル   音の感覚

語感について。音の感覚。


『シルマリルの物語』では、おびただしい地名、人名、その他エルフ語が、容赦なく読者を襲います。


神話伝説の形式なのであります。一般の小説のように、読者が暗記できる速度で固有名詞を出してゆく等の配慮はありません。どのような感じか、未読の方がイメージしやすいように例えれば。外国の人が予備知識無しに「古事記」をひもとく感じでしょうか。


『指輪物語』を最初に読めば、これは主人公が世界やエルフの歴史に詳しくないホビット族なので、ホビット族が外の世界を知る速度で読者も世界を知って行けます。歴史の話やエルフ語が適度に散りばめられ、「ああ、その話をもっと知りたい」、と、ちょうど良く焦がれて昔の話である『シルマリルの物語』を手に取れるのです。


『指輪物語』を読まずに『シルマリルの物語』を読む人は、神話伝説・歴史好きではないかぎり、固有名詞群に圧倒されて投げてしまうのでは。そんな面倒なもの読みたくない、と思う人もいそうです。
ご安心めされよ。下巻の巻末には、固有名詞群の解説索引が付いています。
地図と系図も。
エルフ語の固有名詞を構成する主要部分の解説も。
誰が誰で、何処がどうなのかわからなくなったら下巻を参照すればいいのです。


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さて、津波のように襲う固有名詞との付き合い方ですが、まずは語感を楽しめばいいのです。エルフ語だけではなくあらゆる「異国の言葉」に当てはまることですが。


『指輪物語』では作中に、語感の楽しみ方、さっぱり分からないことあるいは断片的にしか分からないことへの好奇心の持ち方も、随所に出てきます。


“エルフ語幻惑の語感”について、主人公のフロド(非エルフ。ホビット族)がエルフの舘で彼らの歌を聴く場面を引用します。



   かれが注意を向け始めるや、その調べの美しさと、
   かれにはほとんどわからないとはいえ、調べの中に
   組み込まれたエルフ語の美しさとが、まずかれを魅了
   しました。まるでわからぬはずの言葉が自ずと形を
   とり、今まで想像してみたこともなかったはるかな
   土地や、輝かしい事物が幻となってかれの前にくり
   ひろげられるかのように思われました。そして暖炉の
   火の照り映える広間は、この世界の周辺に泡立ち打ち
   寄せる海の上にかかる金色の霧のように見えてきまし
   た。やがてその放心状態はますます夢心地を加え、し
   まいにかれは、滔々とふくれあがる金と銀の川が尽き
   ることなく自分を浸して流れ続けていくかのように感
   じました。その綾なす模様を見分けようにも、あまり
   にも千変万化していました。それはかれの周りに脈打
   つ空気の一部となって、かれをしとどに濡らし、溺ら
   せました。たちまちかれはその輝くものの重みに堪え
   かねて、深い眠りの国に沈んで行きました。
           (「指輪物語」より・瀬田貞二訳)



「溺らせ」は「溺れさせ」ではないか、とか、「あまりにも千変万化する」という使い方はどうなのか、などは訳者様の判断であって私のタイプミスではないことを申し添えます。


 この後すぐ、分からない単語が散りばめられた分からない叙事詩が朗唱されます。こちらはホビットのビルボ(フロドの伯父。エルフの舘で隠遁生活中)が作った詩であり、エルフたちの歌のように全文エルフ語ではありません。以下、冒頭のみ引用。


   エアレンディルは海ゆく人よ、
   アルベアニエンにとどまって、
   ニンブルシルの木を伐るや、
   旅出の船をつくりあげた。・・・・(以下略)
       (「指輪物語」より・瀬田貞二訳)



エアレンディルって?
アルベアニエンって? ニンブルシルって?
人の名であり、土地の名であり、木の名であるらしいと理解できるし、どういう人か、どういう土地か、どういう木かは分からずとも、全体の流れを掴みに行けます。


上記の全文124行の詩は、エアレンディルがシルマリルを額に結びつけて天津海原を航海する有名な話が元になっているのですが、有名というのはあくまでエルフや伝承に通じた人間にとってであります。
読者は中つ国の住人ではないので、当然ながら聞いたことがないのであります。しかも、ストーリーの主な流れとは離れているため、詳しい説明も為されません。
このような場面は指輪物語では良くあることなのです。現実の世界で良くあることのように。


先に引用したフロドにならって、わからぬ言葉はそのまま語感を味わうのが一番。その内にイメージが広がり、それらはいままで想像してみたこともなかったはるかな土地や輝かしい事物へ思いは攫われてゆくのです。



そして、ビルボの詩の朗読の後には、完全エルフ語のエルベレスを讃える歌が続きます。



   アー エルベレス ギルソニエル、
   シリブレン ペンナ ミリエル
   オー メネル アグラール エレナス!
   ナ=カエレド パラン=ディリエル
   オー ガラズレミン エノラス、
   ファヌイロス、レ リナソン
   ネフ アイアー、シー ネフ アイアロン!



まずは味わい方を説き、次に初心者向けを出し、最後に全文エルフ語の詩を持ってくるあたり、さすが言語学の教授であります。


普通の外国語や歴史・神話伝説ならもっと知りたければ調べればいいんですが、ええーと、中つ国の歴史やエルフ語はみんなトールキン氏が創造した訳ですから、ちょっと困難です。シルマリルの物語が出版もされていなかった頃には、知りたいけど文献は無く、待つのは辛かったですねぇ。


しかも、トールキン氏はシルマリリオン完成前に亡くなってしまうし。シルマリリオンは子息が完成させ、残された膨大なメモ類も、日本語訳されていないものの出版されているので、これから読む人は「続きは???!」と煩悶する事も少ないはずです。
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by leea_blog | 2003-04-27 03:06 | Comments(0)

エルベレス  ギルソニエル   さわり編

エルフとは。


一口で言うなら、北欧神話に出てくる、神々と人間の中間的な生き物である。アルフハイムに住んでいる。エッダ『巫女の予言』には以下のように言及される。


アース神はいかに。妖精たちはいかに。全ヨーツンヘイムはどよもし、アース神は寄り集まって協議を重ね、岩壁の案内人、小人らは、石の扉の前で吐息をつく。おわかりか。   

  (エッダ—古代北欧歌謡集・谷口幸男訳)


北欧神話の構造としては、
     神々 — 巨人たち
     (対等)、
その下に、エルフ — トロール
        (対等)、
人間族はさらにその下に位置している、といったところか。

“妖精”という言葉が
ひたすら陳腐なイメージしか持たない我が国では、
妖精と言い換えると、ひどくそぐわない感じになる。
羽虫みたいなアレ、はかなくて燐光と共にひらひら跳んでいるやつとは別物である。

美しい、戦さも強い、
不死の種族で、手の技にも優れている。
不死の種族ゆえに、大抵、賢者である。

これらは、一般的なエルフの話である。


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『指輪物語』や『シルマリルの物語』で
J・R・Rトールキン描くところのエルフは
別の神話世界に属している。
「エルフってなに?」「妖精の一種」。
そういう説明が無謀だと知るため、
ちょっと長いが以下をご覧下さい。


まず唯一神と推測されるイルーヴァタアルがおり、その下に偉大な精霊で「神々」であるヴァラアルがいる。エルフはイルーヴァタアルが作った最初の子である。人間の兄貴分(長上族)で、人間に高度な文化を教える。


イルーヴァタアルは下記の如く言った。

「見よ、われは地球を愛す。地球をクウェンディとアタニの住まうべき舘となさん! クウェンディを地上の全生類のうち、最も美しき者となさしめ、すべてのわが子らのうち、最も高き美を所有し、案出し、産み出す者となさん。かれらには、この世にて大いなる幸いを得さしめん。アタニには、異なる新たな贈り物を授けん。」

クウェンディとはエルフのことで、
アタニは人間のことである。。。。
一言で語れないのは私のせいではない。
トールキン氏の設定のせいである。

物語にはおびただしい固有名詞、地図や年表やエルフ語が出てくるが、それらはトールキン氏の創造物である。最初からこの世界の設定が違うのだ。エルフは精霊でも妖精でもなく、被造物なのである。


それで。
トールキン作品に出てくるエルフは、筆舌に尽くしがたい魅力的な生き物なのだ。その魅力は意識下最深部に作用する。普段は忘れて過ごしても、とある夕暮れ時にうっかり彼らの歌声を耳にしたが最後、ふらふらと付いていき二度と戻って来られない事は、必定である。

人間の分際を越えた美への渇望と、
知への欲望をそそって余りある。
お下品な言い回しを敢えてすれば、
“そそられまくる”と言えよう。


『指輪物語』でホビット族のビルボ・バギンズが、家督を甥に譲った後、エルフの舘で暮らす。ビルボは言う。

「ここは暖炉がとても気持ちがいいし、
食べ物も非常に上等だ。
それにエルフに会いたきゃエルフはいるし。
これ以上何が望めるだろう?」

まったくだ!
エルフに会いたきゃエルフはいるし?
限りある命の人の身やホビットに生まれて、これ以上の老後生活があるだろうか。

   続く
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by leea_blog | 2003-04-13 03:04 | Comments(0)

エルベレス ギルソニエル 再会編。

夏の嵐に近い風雨であった。。。。
気圧の変化に弱い私は昨日から貧血状態、今日初めての食事をようやく終えた。
「そんなあなたは、昆明に引っ越すのもいいですよ。一年中春なんです」
とお薦めをいただいた。中国の昆明のことである。
一年中、春か。
常春(とこはる)の国ですね?
ティル・ナン・オグ、ケルト神話の至福郷をすぐさま連想し、心は歓喜した。

四季の国、破壊と再生の台風も夏にはやってくるこの国は捨てがたい。
が、季節の循環の荒々しさが身体に与える悪影響は、
我が儘な恋人と暮らすのに似ている。

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エルフ語について。再会編。

2003年4月1日。
職場のパソコンで各種情報を検索しながら、私の心は憂いに沈んでいた。
指は、憂いのあまり、我知らず、中学生時代の記憶、エルフ語を打っていた。

Elbereth Gilthoniel

エルベレス ギルソニエル。エルフ語である。
ノートパソコンの画面にはずらりと検索結果が表示された。

おおっ! ! !

Ancalima
アンカリマ。これも試してみる。

ををっ!

感涙の瞬間であった。

英語サイトだが、エルフ語より難解ということはない。
こうして私は何十年来記憶していた言葉の意味を知ったのだった。

神様、インターネットが面倒で嫌だなんて二度と申しません!

“二度と”とはネット苦手の私としては激情のあまり口走っただけで、
これでネット中毒になることは無いと思うが、素直にインターネットのある時代を有り難く思ったのは間違いない。

エルフ語って一体なに? なんでりり野は何日にも渡ってエルフの事ばかり書いてるんだ? と不審を抱かれる方も多いであろう。

以下続く。
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by leea_blog | 2003-04-08 01:52 | Comments(0)

峰峰の氷の焔。梅花悩乱、桜花擾乱。

先週の金曜日にはちらちらと申し訳程度であった桜の花が。

今日は氷の如くに満開。
地には細かな花びらが散り敷いている。
人々は明日の雨を気遣い、今週の末には残らぬだろうと囁きかわす。


私は、吉野の桜を今年も見られぬであろう。
花の季節は花見休みを与えるべきだ。



  リンク集、遊行小径に
  エルフ語サイト様を二つ追加しました。


エルフ語へのコメントはまた後に。
  感動の勢いが余って
 『闇シルマリリオン・謀略編』を
  書き上げ例によって没にしました。
  
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by leea_blog | 2003-04-01 01:51 | Comments(0)