さらにピエール・ルイス




彼の後ろの方に島が一つあって、大きな花が垂れ下がっている大木に覆われている。そこを通ったときには目が見えなかったのだろうか、それとも振り返ったその瞬間に浮かび上がって、不思議にも見えるようになったのだろうか?  彼はそれを怪しもうとも思わない。ありえないことを自然な出来事として受け入れている.......。
 女が一人その島にいる。ただ一軒しかない家の戸口に立って、目を半分つむり、唇の高さまで伸びている巨大な水仙の上に顔を傾けている。つや消しの金のような色をした濃い髪をしている。もの憂げなうなじに重たげに載っている、大きく膨らんだ髪束から見れば、その髪がすばらしく長いことが窺われる。黒いトゥニカが女の体を包んでいて、さらに黒い着物をトゥニカの上にまとっている。そして女が瞼を落としてその香りを嗅いでいる水仙は、夜と同じ色である。喪に服しているときのこの服装の上で、デメトリオスの目に見えるのは、黒檀の柱に載っている黄金の壺のような髪だけである。彼にはそれがクリュシスだとわかる。




(ピェール・ルイス 「アフロディテ」より 沓掛良彦訳)
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# by leea_blog | 2001-06-24 01:48 | Comments(0)

訳比較 ピエェル・ルイス

ねもころに右手(めて)に肌着をおしひらき彼女(かれ)われにあたたかの甘やかの胸を示しぬ。
生(しょう)ある番(つが)いの雉鳩(きじばと)をば、
おおん女神へ献ぜんさまにさも似たり。



(ピエェル・ルイス「ビリチスの歌」より
           「ムナジディカの胸」
               三島由紀夫「果実」より)


ルビの視覚効果は失われますが、()内に読みを入れてみました。
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# by leea_blog | 2001-06-22 01:47 | Comments(0)

文字の海、たゆたう



ビリチスの凱歌でルビが表示されないのを確認しました。
  ちゃんとルビ入れたのに。。。。。


    ルビや改行、空間も作品ですので、ショックです。
  さっそく難題が登場です(笑)
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# by leea_blog | 2001-06-19 01:46 | Comments(0)

ピエール・ルイス

ビリチスの凱歌



 人々が行列をして、勝ち誇るを妾を搬んだ、この妾、一糸纏わぬビリチスを、夜の間に、薔薇の花弁を 数限りなく奴隷が敷いた 貝の形の輦にのせて。


 項の下に手を組んで、足に黄金の環を巻いて、身を横たえて、清らかな花に絡んだ 温かい髪の臥床に、柔らかく 躯を伸ばした。


 十二人、肩に翼をつけた子が 女神のように仕えたが、あるものは 陽傘をさしかけ、あるものは 香水を妾に振りかけ、あるものは 輦の先で香を焚いた。


 輦の周りの群衆の 熱にうかされたざわめきを 妾は聞いた。その時に、薫の 青い霧の中で、妾の全裸の肉体の上に 情慾の人の吐息が漂うた。


(ピエール・ルイス 「ビリチスの歌」より  鈴木信太郎訳)
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# by leea_blog | 2001-06-16 01:45 | Comments(0)

ラテンアメリカの作家

ニドは自分の仲間が風にさらわれ、水面の彼の守護神が火にさらわれて、ともども、稲妻に乗って天から落ちてきたとうもろこし畑のかなたに消えてゆくのを目にした。


そして一人ぼっちになった時、彼はあの「言葉」
—ある世紀に、幾世紀も続いた一日があった—
を生きたのだ。


始終真昼である一日、夕暮も曙もなく澄みわたった、無垢の結晶の一日。



    (M・A・アストゥリアス
    グアテマラ伝説集より「火山の伝説」 牛島信明訳)
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# by leea_blog | 2001-06-16 01:44 | Comments(0)

モロッコの作家

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扉を大きく開けて疑念と過ちを通し入れよと私は助言した。そうすれば、真実もまた入ってくるから。今こそ知るがよい、〈秘密の帝国〉はもはや、夢でも地平線に描かれた砦でもないことを。おまえがその夢、砦なのだ。触れることのできぬとらえがたいこの夢、私の手で刻まれた石、私の息吹でできあがる身体の、この夢の内部におまえはいる。夢でできた存在だけが、おまえに到達できる。私の根もとを成す物質が発する声だけが、おまえに届くことができる。心して待つがよい、前進する森の意志に宇宙が屈し、言葉とイメージの幻惑の中で砂が渦を巻き、永遠と至福のなかに日の光が沈むのを。おまえは見るだろう、力ある男たちが甲冑を投げ捨て、一本の木の前にひざまずくのを、騎乗の族長マー・アル・アイニーンが疾駆し、〈北〉へたどり着くのを、ついには幼年を映す鏡が生み出した夜に、おまえの顔が眼と詩を捧げるのを。祖先の誇りと心のざわめきに忠実であらねばならない。この誇り、このざわめき、この手がもとで死ぬこと—それは、おまえの祖先が十分に心得ていたことだ。


( タハール・ベン・ジェルーン「不在者の祈り」より
 訳・石川清子 )


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# by leea_blog | 2001-06-03 01:43 | Comments(0)