呪術としての日常・香辛料の塗布薬

呪術としての日常

 バリからの帰国当日、九月の二十二日は。成田に降り立つガルーダのアナウンスいわく、地上温度は二十八度。九月の、朝の八時半というのに、三十度近いとは。留守にしている間に秋が深まると思いきや。まあ良い、朝方の寒気にやられるよりは。


 バリ島ではカマンダル リゾート&スパというホテルの、ガーデンヴィラに滞在した。川沿いの傾斜地に客室が建てられており、眺めを妨げない。庭を持つ独立した客室群の、藁葺きの屋根屋根が、ひそりと静まる村のよう。


 朝食から部屋に戻る途中、朝の九時、ふらりとスパを覗いてみた。ほの暗い入り口に立って奥に声を掛けるが答える人もない。香辛料の香が強く鼻を打つ。素晴らしい。挽きたての香料。スパの入り口と言うより、様々な香辛料を盛り上げたバザールの雑踏に立っている心地がした。再度声を掛けるが静まりかえっている。朝一番でスパを訪れる客もいないだろうと扉を開けるだけ開けて散歩に出たか。

 この香料に打たれ、私は強い欲求に襲われた。“これが私には必要だ”、という、動物的な欲求である。新鮮な花びらと香辛料、生薬にまみれて転げ回り、傷を癒そうとする野生の獣と化しかけたのだった。

 後で分かったのだが、これらの香は、ボレーというインドネシアの塗布薬の材料で、クローブ、シナモン、カルダモン、と、まさに香辛料そのものの香なのだった。

 ボレーは、バリのスパでは、ボディスクラブとして紹介される。美白も含んだ美容にはルルールを、どちらかというと治療に近い感覚ではボレーを使う。ボレーは外国人向けに deep healing body scrub と説明される。ディープ ヒーリングとは具体的にはどういう事を? という感じだが、体を温め血行を促し、疲弊した身体を癒すということらしい。スパ向けに開発された訳ではなく、昔から行われているという。

 主原料を書きだしてみよう。

●ボレー
クローブ、ジンジャー、カルダモン、シナモン、サンダルウッド等が主な原料。粗めの粉末。溶いて体に塗る。暖まる。

●ルルール
サンダルウッド、ターメリック、お米の粉等が主な原料。細かい粉末を溶いてペースト状にする。黄色い。美白効果あり。

 原料的にはかなり重複するようで、体調により調合するらしい。ボレーとルルールの決定的な違いは、にわか知識の私にはよく分からないが、見た目と匂いはだいぶ違う。ボレーはいかにも効きそうな香辛料の強い匂いで茶色系、ルルールはお香に似たソフトな感じ、黄色系だ。

 カマンダルのスパの入り口で嗅いだ香は、その後何処で嗅いだよりも新鮮で生き生きしており、漂い包む香というよりも、もはや精霊の気配に似て猛々しく私を打った訳だが、使用する香料を朝一番で挽いてでもいたのであろうか。

 ちなみに、アロマテラピーも、当人が嗅いで「良い香り」と感じたものは、身心が求めている物だという。漢方薬も同様らしい。身体が求める効能を持つ薬は、匂いも味も良く感じられるという。漢方薬に関しては、かかっていた医者が、水と一緒に粉薬を流し込むのではなく、お湯に溶いて香りを嗅いでから飲むことを強く薦めた。
 こうした効果について医者は、猫などが体を壊した時、それに効く草を選び食べて快復を待つ様を例に出した。頭で必要な物を選別するのではなく、生き物の本能の一部が必要な物を欲するのだ。その考えは、ストレートに理解できる。
 というのも、私にとっての文学や美術は、理屈をすっ飛ばした欲求だからである。知識や理屈で理解し味わう物ではないのである。また、頭や理屈でしか味わえないなら、そうした文学はその人にとって本当に必要では無いとも言える。

 そうしたわけで、私がボレーに飛びついたのは傷ついた猫が薬草に飛びつくのとほぼ同様であった。ちなみに、今、部屋には購入してきたボレーの香に満ちている。部屋に入った客人は、「うっ、何、この匂い?」と思うであろう事も想像できる。粉末のまま保存し、使うときにはお湯でペースト状に練って塗るのだが、体に塗って五分から十分放置し、乾いたら襤褸布か何かでこすり取りシャワーで流す、その乾くまでの間南国の香辛料にまみれて本を読む姿も、ほとんど妖術師とまがう匂いであろうと思える。しかしそれが必要な本人は、貴重な香辛料を惜しげなく使った、良質のボレーの粉を持ち帰ったのを歓び、塗った部分が暖まるのに歓喜しているのだ。
 オフィスの冷房に苦しむ女性は試して欲しい。

 ちなみに今回私がバリから持ち帰った物は、マッサージオイル、ボレー、ルルール、生薬のジャムウ、塩、舞踏用ガムランのCDである。素人ゆえ目が利かず、品質に重点を置くなら名のあるスパで購入するしかない。安くない割には、土産として人にあげても歓ばれる確率が少ない代物ばかり買ったと気づき、笑った。粉末やオイルをこうして持ち帰ると、日常の呪術の道具である。

 骨や血に届く効果があるのは、呪術に近い物なのかも知れない。偽霊媒師のこけおどしの呪術ではなく、深淵に降りる虚心な、呪術である。
[PR]
# by leea_blog | 2004-09-26 22:27 | Comments(0)

帰国報告・眩暈する花の香

バリ島のウブドから戻りました。

 ヴィラでのんびりできたかって? いえいえ。わずかな滞在でのんびり出来る訳もなく。着いた翌日には、同行者と残りの日数がわずかなことを嘆き合う有様だった。まとまった休みが取れない日本の休暇観に改めて疑問を感じた次第。

 今回の最大の収穫は、「バリにはまた来るべき!」と痛感した事だろうか。ガルーダなら七時間で行けるしね。

 前に行ったのはいつだったか。父が亡くなる前だから、十年は経っている。今回、日本語の看板がやたら多い事、日本人観光客がもの凄く多い事、観光施設や観光名所には日本語出来るスタッフがかなりの確率で居る事に、本当に驚いた。日本人はバリ島の良きお客様となっていた。ライステラスを眺めるカフェも、ガイドブックに載っているようなメシ屋も、スパも、街中の免税店も、ほとんどが日本人観光客で賑わう。小さな店に入ってもスタッフが日本語で挨拶してくれる。一週間程度の旅行なら、バリの言葉を覚える必要が無いくらい。それどころか英語も必要最低限で可かもしれない。深いコミュニケーションを求めなければの話だが。。。。

 昔は、ややマニアックな日本人がバリ島に行ったのだが今では「ハワイやグァムも飽きた」程度のノリでも行くらしい。マニアックというのは、バリ独特の文化や宗教観に惹かれて行く人が多かったからだ。毎日島の何処かで祭が行われている、という神々の島。さもなければサーファーが来ていた。クローブ入りの甘い煙草、ガラムを吸いながらビーチで遊ぶ人々は一定数いた。

 今はバリ島の文化に関心が無くても楽しめる。スパやエステが充実しているし、旅行会社のパンフを集めて見る限りではそれらは大きなウリとなっている。バリのガイド本も、観光名所案内よりスパ案内に力を入れている。確かに、心身を酷使したOLがスパをハシゴし、花をみっしり浮かべた風呂に入り、天蓋付きの寝台でごろごろして疲労を取るには手頃だ。食べ物も日本人の口に合うしね。

 マッサージ、花風呂、良い香り、美しい色、ゆったりした時間、穏和な人々、音楽、踊り、銀細工、籐細工、美味しい食べ物、天然素材の石鹸やシャンプー、生薬ジャムウ、と、OLの好きそうな物が目白押しなのだ!

 では、気むずかしそうな幻想詩人の好きそうな物は? もちろん健在かつ目白押しである。幻想詩人が女性なら、かなりの確率で上記「OLの好きそうな物」も好きである。

 夜香る花、広い空間、家々の庭にある祠、ふんだんな緑、水、海、霧の掛かる山、静まる湖、鳥の声、屋外で入る花風呂、スパイスの強く香るマッサージ料、神懸かったような見事な踊り、三位一体の神をまつる寺院、耳に飾る生の花、繊細に空気を震わせるガムラン、供え物を頭に載せてお祭りに向かう女達、あちこちに置かれる一日二回の供え物、見事な細工物、放し飼いの鶏、家鴨、蓮の咲く池、精霊たち、悪霊たち、総本山の神の象徴の龍、霊鳥ガルーダ、恐怖に近いものを呼び覚ます闇、苔むした背の高い割れ門、気持ちよく美しい中庭。


 一般的な男性の好きそうな物はバリにどれくらいあるのか? よく分からない。そういえば「一般的な男性の好きな物」って何だ? 考えた事無かったし、今後も関心の対象にならないだろう。
[PR]
# by leea_blog | 2004-09-23 22:25 | Comments(0)

花、闇、楽の音。バリの奥地へ。

「ああ、やること無いわ。暇だわ〜」
と、うそぶいてみたい。

「暇なのよ〜、美味しい物食べに行かない?」とか、「暇で困ってるの、カラオケ付き合って!」と言いたいものだ。
振り返ってみれば、多忙のあまり憔悴して「栄養付けたいわ!」と美味しい店行ったり、「やることが多すぎてストレス溜まってるの。カラオケ行こうよぉ〜」とカラオケ行ったり、「暇をかこつ」暇などまるでない人生であった。。。。


暇になるには、やる事無い状況を意図的に作らなくてはならない。ということで、バカンスの登場です。

9月16日から一週間、バリ島に行って来ます。
ウブドのヴィラに滞在してひたすらごろごろ、スパ三昧。
夕刻ともなれば舞踏を観に出かけ、新鮮な果物を食べ、花を部屋に散らし、塩と香油を入れた風呂に浸かり、、、、。

しかし。一週間で「暇」になれるか?
二日は移動に費やされるから、残り五日で「暇」と感じられるか? 

バリ美人を口説いて部屋で撮影する、とか、タラソテラピーにはまる、とか、刻々と変化する夕日の美しい場所を渡り歩く、とか、瞑想する、とか、渓谷ぎわで本を読む、とかを諦めねばならない。

間違っても、【作品に手を付ける】なんてことはしてはいけない!
 時間がアッと言う間に経ってしまうからだ!

出発の日が迫っている。山積した雑事を置き去りにして、一時姿をくらますとしよう。
[PR]
# by leea_blog | 2004-09-14 22:24 | Comments(0)

台風&夜の会


夜の会展に多数のご来場有り難うございました。

土曜日は朗読会と歓談の後は慌ただしい搬出タイムでした。りり山は夏風邪をこじらせて咳が止まらず大変でした。
励ましを頂いた皆様に感謝申し上げます。

悪天候の中、ベネチア地方のワイン、アマローネと「中つ国の歴史」の翻訳一部を持ってきてくださったR様とお供の人も、深く感謝。

天使アーティストの小原ミチルさんのくれたプロポリス飴でどうにか咳も下火になり、無事作品の梱包を済ませた時。
携帯が鳴りました。仙台在住の知人が「海外から帰って今東京駅にいる」とのこと。画廊の場所は神田、隣駅ではないか。一緒に夕食を取りつつ作品論を交わしていると、またしても携帯が。出てみればこちらも久々の知人でした。仙台の知人のホテル捜しを手伝った後、夜の11時半過ぎにもう一人の知人とお茶、夜の会展の連作を描いている間に溜まりまくったストレスの話を深夜2時頃まで喋っていました。

搬出後に突如降ってきた会談二つで、いつも思うけどまた思いました。表現に関わる人は、作品を作り上げるのにとってもエネルギー使うんですよねぇ。たまには思い切り馬鹿やってバランス取らなくちゃ、次の作品に進めない事、多いんですよねぇ。

悶々と停滞するのは、私にとって「悪」である。
どうでも良いことで悩んだら、疲れている証拠。
九月にはバリ島のウブドでひたすら休憩する予定です。
[PR]
# by leea_blog | 2004-08-29 22:22 | Comments(0)

夜の会

夜の会展の搬入に行って来ました。

いや〜、どうなるかと思いましたよ、今回は。

オリンピック、さっぱり見てないです。いや、テレビ見る時間が無くて。
搬入当日なのに、画材屋でマット切ってもらってる有様だし。

複数枚、徹夜で朝の八時頃まで描いていたし。それでも納得行かなくてほとんどが没の運命を辿ったので、事前にマットを調達する事が出来なかったんです。

午後二時過ぎ、額を持って家を出たばかりなのに「今どの辺ですか〜、そろそろ展示作業始まりそうです」と天使作家の小原ミチルさんからメルあり、「こんな時間に家を出るのは私だけか?」と冷や汗でした。

マットを調達するため画材屋に寄って気づけば、肝心の「絵」を家に置いてきてしまっているではないですか! マットの外側だけ額に合わせて切って置いてくれるよう依頼して、大急ぎで家に戻りましたよ。こんなに運動したのは久しぶりです。

ようやく絵を持って画材屋に。今回パステルなんですが、定着剤掛けてないので、その場で定着剤を購入して画材屋の床で絵に吹き掛けました。家でやれよ、そんなこと(汗)

画材屋のお兄さんが、気の毒そうな口調で「大変ですね。締め切り前ほど手直ししたくなるものですしねぇ」とフォローしながら荷造りを手伝ってくれました。

日曜で人気のない神田の街を走り抜け、ようやく画廊にたどり着き、画廊で落款押したし。
家でやれよ、それくらい(汗)
落款押す時間も無かったって、りり山さん、あなた徹夜で何やっておられたのですか、と問われれば。それはまた後日。

展示終了解散後、歓談しつつ待って下さり、大幅に遅れまくって到着したわたくしの展示作業を嫌な顔せず手伝って下さった皆様に感謝申し上げます。
[PR]
# by leea_blog | 2004-08-23 22:20 | Comments(0)

日本語迷惑メールの、ちっともそそらない中身

ここの所、女性名の迷惑メール(日本語)が多いです。

英文の迷惑メールは以前から、いかにも「知人」が連絡してきたりホームページを見てメールくれたような、「開きたくなるように工夫された」件名でした。中身は大抵決まっていて、「金貸します」、「精力剤」、「痩せ薬」、「禿に効く薬」、「女性と出会えます」、ですね。無差別宣伝メールを送って金になる内容って、英語圏だろうと日本語圏だろうと変わらないのだなと感心しました。

かつて英語メールをうっかり開けたら、美しくて気だての良さそうなロシア美人の画像がずらりと並んでました。お友達募集してると言うじゃないですか。美に弱い私は思わず読んでしまったよ。最後まで読んだら、彼女たちはアメリカ人の男性の友達を募集してると書いてあって、ムカッ! こらこら、こらっ!!! ロシアのエロ業者! jpのメアドにアメ男性募集のメルを送るなよ! 

ホームーページにメアド載せていると自動的に回収して送信するそうです。掲示板に書かれたメアドも自動回収・自動送信するらしいですね。

アダルトサイト愛好者の知人が、「その手のサイトにアクセスすると迷惑メールが山のように来て困る。家族にばれてしまう」とこぼしました。私は笑って慰めた。「アダルトサイトにアクセスしなくてもその手のメールは山ほど来るから安心なさいな。私は変な仕掛けが怖くてアダルトサイト覗かないんだけど、知らない女の子から“合いたい”と言うメルが来まくってるわ!」
ま、私がたまたま女性だから怪しいメールが来ても即削除しますが、世の男性のかなりの数がこっそりアダルトサイトにアクセスしてしかもパートナー募集掲示板に書き込みしてるんだろうなぁ。そうすると、知らない女性名で馴れ馴れしいメルが来たら開けて、中には返信する人もいるんだろうなぁ。。。。

心当たりが全くないのに家族あるいは恋人に白い目で見られて困る諸氏は、そういうわけなので、ご安心を。削除に追われてるのは男達ばかりじゃない、ってことで、最近の実例を以下にコピー&ペーストします。

件名 希望の額を用意いたします。私の話を聞いていただけませんか?
本文 突然のメールで申し訳ないと思っています。貴方が既婚者でも彼女がいてもかまいません!秘密は厳守します。
29歳バツイチです。3年前い主人を亡くし、仕事に明け暮れる毎日をおくっていました。
最初は話を聞いて頂くだけでもかまいません、ゆくゆくは心の許せる関係になっていければと思いメールをしました。貴方の周りには一切迷惑はかけるつもりもありません。よろしければお相手をして頂けませんでしょうか?もちろん貴方の時間を少しさいていただく分の希望額を用意します。それだけの時間も資金もあります…ただ私には欲求だけが満たされていません…。
私の心の穴を埋めて頂けませんか?1つだけ私の願いを叶えてください。いいお返事をお待ちしてます。

件名 あずさです
本文 ちょっと早い暑中お見舞い申し上げます♪
PCがウイルスにやられちゃって直すのに一苦労(-_-;)
今年の夏こそ海に行かなくっちゃって思ってまぁす♪
アドレス帳は残しておいたから一安心(´▽`) ホッ
メールが消えちゃったんで振り出しに戻っちゃうけど
いいかな?楽しい夏にしようよ

差出人 いずみ
件名 会いたいね☆
本文 新しいサイトだよ☆
この夏誰かと一緒かな?
ここでも素敵な人と出会えるかもよ?
とりあえず入ってみよ♪

件名 なつこと申します。
本文 新しい出会いを求めてメールしてみました。
仕事ばかりで寂しい毎日を変えたくって。
仲良くなれたら会ってみたいな。気軽にメール下さいね。
なつこ 
[PR]
# by leea_blog | 2004-07-28 22:18 | Comments(0)