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へいけうたのあかり 平家物語辰巳本のこと



歌人の辰巳泰子さんの朗読を聞きに、新宿のジャズバーサムライに出かけた。

洗濯物も干しっぱなしで駆けつけたが、やや遅刻した。

トレンチコート姿の歌人が、心地よい声で平家を物語っていた。
平清盛の長男、重盛が、武装した父をいさめてかきくどいているところであった。

トレンチコート姿は、物語の進行に従い、ランジェリー姿、着物姿と変わってゆく。


ところで。私は、重盛とその息子達が好きである。
初めて平家物語を読んだ時、はじめの方は半分寝ながら読んでいた。気がつけば、異常にかっこいい人が登場している。その名も「小松殿」。「小松殿って誰?」と、慌てて最初から読み直したのだった。清盛の長男、小松の内大臣、重盛(しげもり)の事だった。

更に保元・平治物語を読んで、若い頃の重盛が戦もできた事を知って狂喜した。

顔から火が出るほど恥ずかしいが、知っているひとから突っ込まれぬ内に自分から言う。小学五年生くらいの時、重盛の出てくるバカ漫画を書いて、クラスの子達に見せて回っていた。真面目な歴史漫画ではない。バカ漫画である。重盛だけ真面目で、他の登場人物、平家源氏双方、おバカなのである。平家一門は延々と滅亡せず、笑いを振りまくのである。
深刻な話は、深刻なだけでは負担が過ぎる。ミハーに息抜きしないと、「死に際哲学」をぶつばかりでは能がない、と当時思ったのかどうかは記憶にない。ちなみに「死後哲学」もぶっていた。死んだら崇徳院のように天魔と化したり、平家一門のように竜宮暮らしをしたり、太平記の連中の如く天狗や悪鬼となって豪勢な暮らしをするのである。限りある人間の身より楽しい、本来の姿に返った生活。


話を戻そう。朗読はどうだったのかって?

良かったんです。重盛が、お父さんの清盛にかきくどいているんですが、深い悲しみに溢れていた。一重詰んでは父の為〜、という地蔵和讃が挟み込まれ、小松の内府重盛は、賽の河原で父恋いながら崩されてしまう石を積んでいく無力な幼子に重なってゆくのですね。

清盛もね、原作でも憎めない人なんですが、辰巳本でも結構良い人で、重盛の機嫌を取ろうとする清盛の様子は可愛かったですね。重盛の死後、哀しみと怒りに沈む清盛も良い。

語りの合間に挿入される辰巳氏の短歌も、物語との相乗効果抜群。

後半の朗読、源頼政一党自刃、宮のご最期も、ともかく深い哀しみの語り口に貫かれ、それは、これ見よがしな哀しみではなく、ひたひたと伝わる血肉を備えた哀しみなのでした。

こうした試みは、小説の映画化にも似て、読者の間には既に個別のイメージや解釈ができ上がっている為、マニアなファンのウケがいいとは限らない。歴史小説は、大抵がマニアな読者の為、突っ込みを盛んに入れながら読まれているだろう。「これはこうじゃないだろ」などなど。

が、辰巳ヴァージョンは、その自然体もあいまって、心を打つ。自分のイメージとの違いを、素直に聴ける。それは特筆したい。

何より触発される。
自分と他との違いは、面白いのである。
では私は太平記を、後南朝の物語を、と思うが、平家物語辰巳本の前には二番煎じの試みとなるのが情けないので、今は純粋に人の朗読を楽しみたい。

そして、平家物語を取っつきにくいと思っている人にも、おすすめできる。よくわからなくても大丈夫。物語の断片も、面白いのだから。
by leea_blog | 2009-04-21 00:05 | Comments(2)
Commented by 二健 at 2009-04-21 23:38 x
りーあさん、含蓄あるご評、たいへん勉強になります。
私は物語の理解能力がうといので、助かります。
当店ご利用では辰巳泰子初舞台でしたので、
どうなることかと心もとなかったのですが、
お陰様で内容とお客様共に充実していて成功でした。
辰巳さん~りーあさんを介した平家物語、新鮮でした。
Commented by leea_blog at 2009-04-22 00:14
内容もお客さんも、充実していましたね。七月にある続きも、楽しみにして伺う予定です。
俳句、短歌界は元気がいいなぁ。現代詩の課題について考えてしまいます。
サムライがますますの文化発信基地になりますよう祈念しております。
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