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乳白色の雲中散策&隠れ湯のこと

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突発的逃避行、兼、湯治。隠れ通い湯治場が、箱根にある。
温泉好きが口コミで囁き交わす、秘湯である。

二日続けて、秀明館に通い湯治を決行した。
吸い寄せられたとしか言いようが無い。二日目は、連れの人妻と目を見交わし、お互いに相手が
「今日も秀明館で過ごさない?」
と言いだすのを待っていたが、ワタクシが先に誘惑に屈した。


お湯の質が実に良い。宿泊は出来ないが、部屋を借りてごろごろできる。
鴬のさえずりが遠近にこだまし、水の音がどこからともなく響き、山々を渡る風に木々がざわめきつづける。箱根ではないようだ。

階段を下りてゆくとすぐ湯船が有り、正面のむき出しの岩に掛かる注連縄が暗い水面にくっきりと映っている。湯を味わう女性達のしろい背中が階段に並ぶ。高窓から薄日が差し込む。

熱めのお湯に身を浸していたが、冷房で血行が悪くなるのが日常と化しているワタクシは、すぐ息が上がってしまった。雲が逆巻きながら荒々しく中庭に降りてくるのを眺めながら、高原の風にほてった顔をさらしていた。雲がいきなり切れて。日が射すと、強い天然の照明を当てたように黄金に燃え立つ。

時間が解けてゆく。

百合が無造作に咲く傍らを通り過ぎ、宿へ帰ろうとしても、ロープウエイはとうに終わっていた。
私と人妻は顔を見合わせた。

荒々しい雲が地表を舐めるなかを突っ切り、徒歩で桃源台まで下った。雲で周囲が見えない。乳白色に閉ざされている。時間の感覚が溶け、野鳥のさえずりに同化した今の心象風景と身体を取り巻く光景のなんと一致している事か。

傍らで音がすると、熊か肉食の何かではないかとひそかに肝を冷やす。だれも通らぬ道をひたすら歩く。その心地よさ。大地の底から湧く清明な湯に浸かって気力が増していた。

吉野熊野に比べれば、道に迷ったとしても、ここは箱根、大事になる前に人家にたどり着けるだろう。

写真は二日目。雲は強風に散らされ気味で視界は確保されている。携帯にて撮影。
by leea_blog | 2009-07-27 20:11 | Comments(0)
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