金井美恵子の【ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ】を読んだ。
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長い凪の間、青い海は一面の真っ平な鏡面のようにスミレ色のあふれんばかりの太陽の光を反射させ、しんと静まりかえったはてしもなく広がる青とスミレ色の輝く巨大なドームの中で、どちらの方向から吹いて来るにせよ、唾液で濡らした人差し指の先に一吹きの風の冷たさを感知したなら、すぐさま何本もの多様でややこしい名称で呼ばれるロープを操作して、それ以上に多様でややこしい名称がついているせいで、何度読んでも決して憶えられもしなければ、半ば以上は覚える気さえないたくさんの帆やマストや帆桁に風を受けて、青とスミレ色と緑と白光に輝いて時がとまってしまったかのような不動の天空と海のドームから抜け出す事が出来るのだが、と水夫たちはジリジリ照りつける太陽を帆布の陰でよけ、体中から吹き出す汗にまみれながら、帆船上での過酷な労働のあれこれを何もすることがないので、針仕事をしたのだ、と伯母は言う。
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句読点によって延々とつながる文章の一冊。