人気ブログランキング | 話題のタグを見る

谷崎潤一郎「少将滋幹の母」あらすじ・その一 



日常に純文学を。

「純文学? 堅苦しそうで、読むのが面倒」、と、お思いの方も、多いと思います。

しかし、それはあまりにも、もったいなさ過ぎます。

と、拙ブログでは、時折、鍛えられた文章力が注ぎ込まれた、文豪の作品を、

「偏りまくったセレクト」をして、ご紹介しています。

純文学を紹介するのに、思い切り真剣に評論することも、可能です。

が!

拙ブログでは、

「へえ〜。純文学って思っていたより面白そうだな」と、

通りすがりの方にも思っていただくのが趣旨ですので、

平易な視点からご紹介しております。



さて、今日は。

日本が世界に誇る、大文豪、実は耽美な変態さん、

谷崎潤一郎の、「少将滋幹(しげもと)の母」をご紹介します。

下ネタと言いますか、

微グロ?といいますか、スカトロ、といいますか、

そういう部分あり。

苦手な方は、今回は読まないで下され。


谷崎潤一郎というと、

「刺青」、「春琴抄」、「痴人の愛」、「細雪」などが、知られております。

拙ブログでは、過去日記に、谷崎の、あまり知られていない名品を複数紹介しておりますので、

ブログ内を、「谷崎潤一郎」で、ご検索ください。


「少将滋幹の母」は、

中公文庫で、画家の小倉遊亀の挿絵の完全収録版が出ております。

母恋い、老人愛、略奪愛、男を翻弄する悪女、お下品、匂い立つ美、闇に垂れ籠める高貴の女性、と、

谷崎潤一郎の作品に頻出するテーマが、沢山詰まっており、

それらが、円熟の筆致で、匂いやかに描かれる、名品です。


時は平安。

菅原道真を太宰府に追いやった事で有名な、藤原時平の時代。


名高い色好みの、平中から物語は始まります。

さまざまな逸話を、緩やかに語りつつ、織りなされる、王朝絵巻、谷崎版。

まさに円熟の語り口です。


私は、実は、小学生の頃に日本文学全集を買ってもらい

(実は全集が欲しかったのは、父の方だった、と今は分かる)、

小学生の頃に読読みました。


子供に、谷崎の真の魅力が分かる訳が無いのですが、

文豪の筆力は、子供なりに理解出来ました。

北の方強奪のシーンの名文章、

奇怪な「不浄観」、

最後の方の、夢を見ているかのような描写、

などは、子供心にも強い印象を受け、

「谷崎潤一郎は、凄い人だ」、と思ったのでした。



現代の大人が印象に残るであろう点は、以下ではないでしょうか。

と、話が色好みの貴族の話から始まるので、

拙ブログでも、行きがかり上、

平中のエピソードから触れます。

色好みの平中が、侍従の君という女性に熱を上げ、

しかし、すげなくされたため、彼女への思いを断ち切ろうと、

彼女のおまるを、侍女から強奪する話が出て来ます。



平安時代の恋愛ですから、

相手の顔も知らないまま、恋いこがれたりもします。

平中は、冷たい侍従の君に恋いこがれるあまり、

排泄物を見て、現実に戻って思いを断ち切ろう、としたのですね。



現代で言えば、「美少女はトイレなんかに行かない!」と思っているロリオタが、

彼女がトイレに行く所を見て思いを静めよう、としている感じでしょうか。



平安時代ですから、高貴の女性は、箱状のおまるに用を足し、侍女に捨てさせます。

それを、平中は、奪い取り、家に帰って、じっくり検分しようとします。


さて、この事件は、物語の進行上、大切なシーンなのですが、

小学生の私には、実はよく分からなかった。

恋しい人のおまるを奪い取って、

中を見る事が、何の意味があるのかもわからなかったし、


実は、平中の行動を予測した侍従の君が、

おまるの中身を凄いモノに変えておいたため、


ますます平中が焦がれて死んでしまう、

それが、頑張って理解しようと何度読んでも、よく分からなかったのでした。

大人になって再読すると、

色事師・平中の身勝手な色恋もよく分かるし、

侍従の君の、相手をぎりぎりまで翻弄して焦がれ死にまでさせる、

美しいけれど悪い女性という、「いかにも谷崎の好きそうなテーマ」も、よく伝わります。

年齢によって読み方や響いて来るものが違うのが、純文学の醍醐味です。



さて、平中が奪い取った侍従の君のおまる。

どれほど美人であろうと、

排泄物はむさくるしいものだ、それを眺めて、報われない片恋を断ち切ろう!

と、する平中も変な奴で、女性から見ると迷惑な変質者ですが、

侍従の君も、悪魔的に上を行っております。



彼女は、平中が奪いにくるであろうと予測し、おまるの中身を、工夫しておきます。

中身は、一見、排泄物のように見える、

しかし、そういうものらしくない、えも言われぬかぐわしい匂いがします。

あまり不思議でたまらないので、中にある液体を、少しすすってみます。
(止せよ!!!)

また、棒切れに突き刺した固形物を、ちょっぴり舌に乗せてみます。
(や、やめろよ!!!)

尿のように見えた液体は、

丁子という香料を煮出した汁であり、

糞のように見えた固形物は、野老や合薫物を甘葛という甘味料の汁で煉り固めて、

大きな筆のつかに入れて押し出したものなのでした。

以下、引用。



「いみじくも此方の心を見抜いてお虎子(おまる)にこれだけの趣向を凝らし、男を悩殺するようなことを工むとは、何と云う機智に長けた女か、矢張り彼女は尋常のひとではあり得ない、と云う風に思えて、いよいよ諦めがつきにくく、恋しさはまさるのみであった。」

「侍従の君はますます驕慢に、残酷になり、彼が熱を上げれば上げるほど冷ややかな仕打ちをし、もう少しと云う所へ来ては突っ放すので、可哀そうな平中は、とうとうそれが原因で病気になり、悩み死にに死んでしまった。」


このエピソードは、

いかにも谷崎の好きそうな話ですが、

谷崎の創作ではなく、今昔物語が元になっております。

変な奴や意地悪な美女は、昔からいたものだ。

まさに、良材を得た、というところでしょう。



谷崎潤一郎の作品には、こうした、男を翻弄する女性が多く登場します。

侍従の君にしても、痴人の愛のナオミにしても、

男子読者は「うわー、怖い女だ、ひどいもんだ」と思うかもしれません。



が。女性からすれば、

「そこまで翻弄してくれる女性なんて、

君たちの人生では遭遇できないでしょ。

男子が構って欲しくても、女性は好きじゃない異性を翻弄するほど暇じゃないわよ。

まあ、男子の妄想ね」。で、あります。



「自分の恋慕の情につけ込んで、ひどい仕打ちをして欲しい」という願望を持つ、

精神的マゾヒスト男性も、実際いる訳ですが、

女子から言えば、

「その前に、女性様の気を惹かなくては。

気を惹いた後も、気を引き続けなくては、駄目ですね。

要するに、『ただしイケメンに限る』、という事ね」


という、現実の壁があるのであります。


続く。

次回は、もっとあでやかなシーンをご紹介予定。
















by leea_blog | 2017-09-05 19:04 | Comments(0)
<< 谷崎潤一郎「少将滋幹の母」あら... 辻村ジュサブロー「人形曼荼羅」... >>