2005年 10月 30日 ( 1 )

カスタムナイフの清冽なきらめき、そして甘い優雅のビスクドールの日

 臨海副都心に出かけた。
JKGナイフショーを見に行くためだ。
 りんかい線の国際展示場前駅を出ると、ほっとした。この辺りは、視界を遮るものが極端に少ない。空と、海、広い歩道、空気に微光が偏在する。ああ、嬉しい。コップから池に放された金魚の気分である。どうも、この地帯に来ると、ほっとするのである。海が近いからだが、それだけではなく、空間の浪費が甚だしくて、雑多な緑もふんだんである。地霊は居ないが、さりげなく異形の漂着物の気配がある。



 カスタムナイフショーは、時間を間違えてたどり着いたときは閉会間際であった。
精魂を込めた刃の澄んだきらめき、柄の意匠に魅惑された。

今回は、日常用を探していた。丈夫で美しい細工に満ち、携帯に便利な、日用品にして護符となる刃物を。具体的には、普段はお昼ご飯のパンのかたまりや固いチーズ、果物を切ったり、稀には野山で野鳥や小獣を捌く為の。切れれば良いのではない。常に持ち歩きたくなるような魅惑を秘め、なおかつ邪霊から身を守る力のある刃物である。

 そう注文をつけると、簡単には見付からない。ぴったりの物が無くて助かったかも知れない。高価なのだ。さらに、カード利用不可なのが助かっている。カードが使えたら、刃の邪心無き眼差しに魅入られた私は、きっと、家に連れて帰りたくて買ってしまうかも知れない。

 日常物を買おうと思っていても、つい目が行くのは非日常物である。やや大振りのナイフである。それでも、「短剣」程の大きさである。短剣、つまり、剣を求めるなら小ぶりである。
心地よい重さが手に馴染む具合を確かめる内、それくらいの大きさの物は最低限一振りは持っていなければならないような気がしてくる。
 心の底に、私ではない誰かが囁くのだ。
「一振り位手に入れろ。短剣位は、常に腰に下げていろ。成人して何年も経つのにいつまで丸腰で過ごすのだ。ひとまず、それを買え。真実欲しい物は後でゆっくり探せばいい」
あぁ〜。私は理性を振り絞った。
ひとまず、それを買えって、幾らだと思っているのだ。
“ここは21世紀の東京です。こんな物を携帯していたらあっと言う間に警察のお世話よ。”
声は食い下がった。
「異国を旅する時はどうするつもりだ。刃物も無しでは、不便きわまりないではないか」
“成田で取り上げられるわ。返してくれるはずの到着空港で請求しても、《届いていない、見つかったら連絡する》、の一点張り。連絡が来ることはない。これは経験済みです。果物用のナイフは現地で安物を手に入れて、出国時には置いてくるしか無いわ”
声が黙った隙に無理矢理コーヒー休憩をした。
一振りの刃物を、携帯。確かに昔の人には普通の事だったのだが。
普通にして、必要に迫られていたのだが。


 暮れなずみ海ぎわをゆりかもめに乗って新橋に着き、銀座一丁目に向かった。知人のビスクドール展があるのだ。大坪純子氏は創作とは関係ない所で知り合った人だが、その正体は、アンティークドールのレプリカの製作家さんだった。

 銀座のアンティークモールは、ここもまた、迷い込んだら無事抜け出すのが大変そうな場所である。迷路だという意味ではない。身分不相応な買い物をして、支払えず、奴隷として売り飛ばされそうだ、という意味である。

 二階のギャラリーにビスクドール達が並んでいた。十一月近い夜の銀座に思いがけなく、春の日だまりのような人形達であった。見に行くのはもっぱら創作人形の私だが、実家に置いてあるのはアンティークドールのレプリカである。人形屋【竹取物語】のミニ市松人形も持っている。今回来てみて、天真爛漫系、優雅で甘い、透き通る肌の人形達にほっとした。

 大坪氏の話も楽しかった。寝る前に人形の置いてある部屋を覗き「可愛いっ」と満足して眠る、とか。

 ああ、それ、わかる。妖霊系のワタクシでさえ、家に帰って並んでいる描きかけの作品達を見ると、本当にどの子も大切な、心の深部に直接通じる子達で、その眼差しに安らぐのだ。ああ、美しいよ、可愛いよ、と心で囁きつつパールを溶いて髪の筋を描いていたりする。ウチの姪にはワタクシの絵はやたら怖いようである。姪の反応は、まぁ、一般的にそうだろうなと思うので別にショックではない。

 満足いくものを造るのは、実のところ、げっそりやつれるほど大変な作業である。人知れぬ辛苦の末満足出来る作品になると、達成感も手伝って、心の底から「可愛いっ」と思えるのである。もっとも、大坪氏の作品は作者じゃなくても「可愛いっ」と思えるのだが。

 魔の道神の道であるカスタムナイフとアンティークドールをハシゴしたわけだが、図らずも共通点があった。古い時代から、刃やひとがたは、神々(力を持つ自然霊)との対話、祈りに使われた。大坪氏に、異界と此の世を繋ぐものとしての刃物、人型の話をしかけたが、理性がそれを遮った。生活の掛かった方の仕事の関係者だし(笑)
 大坪氏の世界は、妖霊巫女系幻視系のワタクシとしては、聖にして邪、闇と光は同一、混沌の豊穣がどうのこうの、破滅と隷属の精霊論、とか、そういう話をやめておいた方が良いような、優雅であまやかなアンティークレースの香りがしたのである。

 充実した一日だった。。。。

 
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by leea_blog | 2005-10-30 23:40 | Comments(0)