2017年 10月 31日 ( 1 )

梨木香歩「りかさん」・不思議愛しい人形世界


このところ、人形絡みで、良質の本に出会えています。
今日は梨木香歩の「りかさん」を紹介します。

人形は、愛しい、可愛い、でも、ちょっと怖い所もある。
そうした、不思議な人形たちとのかかわりを、
すうっと入ってくる文章で描いてくれます。


お雛祭りのお祝いに、おばあちゃんから何が欲しいかを聞かれ、
リカちゃんをお願いした、幼いようこ。
おばあちゃんから届いたのは、
「りか」という名前の、古い市松人形だった!!!

という、ショッキングな?はじまりです。

・・・・こんなの、リカちゃんじゃない。


リカちゃんが欲しかったようこは、
がっかりして、
悲しくて、
届いたりかさんを抱きしめもせずに、
寝てしまいます。

でもね。
このりかさんは、
リカちゃん人形よりも、ずっと、ずっと、
素晴らしくて、本当によい人形だったのです。


おばあちゃんによる「取扱説明書」には、
りかさんの世話の仕方が書いてあります。

朝は着替えさせて、
髪をすいてやり、
専用の食器で朝ご飯を食べさせ、
夕食も一緒に、
夜は寝間着に着替えさせて、
一緒に寝る事。


私は手の平サイズの市松人形を持っており、
大切に箱にしまったままです。

リカちゃん人形は一緒に寝ても大丈夫な作りですが、
市松人形は、果たして一緒に寝て、
劣化しないものだろうか。。。。
髪の毛は絹だし、
顔は胡粉だし、、、。
と、心配ですが、
おそらく、メンテに出しながら一緒に暮らすものなのでしょう。

この「りかさん」という小説、
人形好きから見れば、
「あるある」のオンパレードです。

部屋の景色が変わって見える事、
人形から暖かい風が吹いてくる事、
その他、もろもろ、
身に覚えがあります。

梨木香歩は、
わかりやすく柔らかい筆致で、
私たちの住んでいる日常を、
いとおしそうに切り取ってみせてくれます。

上手い表現だなあ、と、感心する事しきり。

人形好きなら頷けるし、
「いまひとつ人形って分からないんだよね」と思っている人でも、
読み進むにつれて、
「りかさんのような人形が欲しい」
と思う事、間違い無しです。

でも、りかさんは、
これまでの持ち主が、
正しく愛してきたから、
こういう人形になったのです。

と、いうことは、
あなたの家の人形も、
正しく愛していれば、
りかさんのように話もすれば
不思議な世界を仲立ちしてくれ、
また、守ってもくれる人形になるかもしれないのです。

人形とのかかわりは、女の子だけに限りません。
「俺のフィギュアも話してくれるのかな?」
という男性も多いでしょう。


ようこは、りかさんと仲良くなる事で、
他の人形たちの声を聞く事も出来るようになります。

今まで見てきた世界が、
りかさんのおかげで、
新しい側面を見せるのですね。

世界がもう一つ豊かになるのです。


「りかさん」は、
養子冠の巻、
アビゲイルの巻の、二段に別れています。

前段は、
お雛様たちの物語が中心、
後段は、
日米親善使節の人形の悲しい話が中心。

アメリカと日本で、
親善使節団として、
人形たちがやりとりされた歴史に話を取っています。

その後、戦争が始まり、
人形たちは悲しい目に遭います。

どうなるか分かっていて読んでいると、
アビゲイルを送り出すアメリカ側の人々の愛が、
アビゲイルに詰め込まれれば詰め込まれるほど、
悲しくて悲しくて。。。。


かばってくれた女教師が出張している隙に、
アビゲイルが、竹槍で突かれて焼かれてしまうシーンでは、
涙がぼろぼろ出てしまいました。
電車の中で読んでいたので、
きまりが悪いったら。。。


愛玩動物とか、
人形とか、
人間と比べて圧倒的に非力な存在が
悲しい目に遭う物語は、
どうして良いか分からなくなるほど悲しくなります。


人間でも、
さまざまな要因で圧倒的に非力な存在が、
悲しい事になるのが、
辛いのと同じ構造です。

ただ、人間同士だと、
背景の人間関係や社会関係、
その他が邪魔になり、
手放しで泣いていいものか、
大人になると、純粋に泣けない場合が増えます。
人間愛を利用した、裏の事情が沢山ある訳です。

「そんな都合良く泣かされないぞ」と、
つい思ってしまいます。

それを、人形という形に置き換えて、
善意と愛しか知らなかった存在が、
切り刻まれ焼かれる様を人形の視点で描く事で、
大人社会の醜さを脇に置いておいて、
涙が止まらなくなるのでした。


ところで、人形は、
長い間放置されたら、
寂しくないものだろうか?

りかさんは言います。
「人形は周囲に人がいなくなったら、自然に休むようにできているのよ。種が冬眠するようなもの。」

しまい込まれていても、
「寂しい」と恨む事は無いのですね。

それなら、余計、自分の家のしまい込まれた人形たちをあたってみよう。
みなさんも、どうぞ!

私も、大切にしまい込んであった、
市松人形の「たま子」を、箱から出してみました。

つい昨日まで仲良くしていたかのように、
たま子は、片手を上げて挨拶した姿でした。

ううむ。これは、確かに、
ちゃんとお世話して寝食を共にするうちに、
魂が宿りそう。

しかし、うちには、
台湾の布袋戯の人形が二人いて、
その人たちともっと親しくする為に、
たま子はまたそっと箱にしまいました。




[PR]
by leea_blog | 2017-10-31 22:16 | Comments(0)